【完結】それは本当に私でしたか? 番がいる幸せな生活に魅了された皇帝は喪われた愛に身を焦がす

堀 和三盆

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番外編

5 嘘から出たまこと ※

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 旅行客を狙うため、街中で客引きをしていた時に声をかけたのがお忍びで街を見物していたロイエだった。
 いつものように、


「待って! ようやく見つけたわぁ♡ 貴方、わたしの運命の番でしょ?」


 そう言って自慢の胸を押し付けて。ウルウルと目を潤ませ相手の男を見上げたリエーヴルは驚いた。相手の男がまるで美術館に置いてある彫刻のように整った容姿だったからだ。

 女神様が統べるこの世界において。そんな奇跡のような美しい姿を持つ種族は一つだけ。


(竜人……)


 話には聞いていたがリエーヴルはその姿を見るのはこれが初めてだった。噂にたがわぬ美しさだ。リエーヴルは仕事を抜きにして一目で心魅かれた。

 レースやリボンのたくさんついたドレスと同じように、このキレイな男もリエーヴルにこそ相応しい。
 そう思ったリエーヴルはどうしてもこの竜人の男を手に入れたくなった。

 なのに。


「離してくれないか。私には愛する妻がいるんだ」


 竜人の男はリエーヴルを一瞥して冷たく通り過ぎようとした。プライドを傷つけられたリエーヴルは更に男に体を密着させた。男がピクリと反応したのが分かり、リエーヴルはほくそ笑む。

 どうやら無理に振り払う気はないようだ。竜人と言えども所詮は男。番との行為には興味があるらしい。ならば誘い文句は決まっている。


「嫌よ! だって、貴方はわたしの番だもの。……ねぇ、ちょっと位いいじゃない。少ぉし試すだけよ。後悔はさせないからぁ……。ね♡ お願ぁい♡♡ ……だって、これはきっと運命よ? チャンスを逃していいの? 運命の番とのソ・レはとぉ~ってもすごいらしいわよ? 貴方だって少しくらいは興味あるでしょう? 大丈夫よ、もしも違ったら途中で止めればいいんだからぁ。ね? ね?」


 当然、リエーヴルには途中で止める気などないから口から出まかせだ。尚も迷っている様子が窺えたが、最終的には死んだ両親に代わり病気の兄弟の面倒を見ているのだと嘘をついて泣き落とした。




「く……っ、ヴィ………ア……ッ」

「……だ……め…ぇ。ロイ、ロイ……わた、しの名前……ぁん、ちゃん…と、呼んでぇぇ……お願ぁ…い、……ぁあ~んんぅ」

「あ…コラ、ソコ――は! …く……ああああぁ……ヴ…………リエー…ヴル。リエーヴル。リエ、リエ、リエ……愛しい、愛しい私の番……っ!」


 最初こそ乗り気でなかったようだが、宿へ連れて行きいざコトを始めてしまえばあっという間に二人の心と身体が一つに溶け合った。

 彼の妻だろうか。『ヴィ……?ア??』と、リエーヴルとの行為の最中、別の女の名らしきものを呼んだときは腹立たしかったが、胸のあたりにある鱗のようなロイエの良いところをなめ上げてやれば、すぐに声を震わせてリエーヴルの名を呼び、リエーヴルとの行為に夢中になってくれた。

 これまで多くの客と枕を共にしてきたが、リエーヴルは研ぎ澄まされた快楽で魂が溶けあうようなこんな感覚は初めてだった。

 口を合わせ肌を合わせ、際限のない快楽に震える魂をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせながら、尽きることのないその行為は真っ青な顔をした彼の側近だという男が宿に乗り込んでくるまで続けられた。




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