【完結】それは本当に私でしたか? 番がいる幸せな生活に魅了された皇帝は喪われた愛に身を焦がす

堀 和三盆

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番外編

2 家出

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 美人の母親は歳をとってもよくモテた。そしてある時、獣人の国から出稼ぎに来ている獣人の男と再婚をした。

 どうせ再婚をするなら貴族とすればいいのに。何故わざわざ金のない獣人の男を選ぶのか。

 リエーヴルがそう言ったら母親は『あなたも大人になって恋をすれば解るわよ』と笑っていた。



 母親が再婚をしてから家族の暮らしぶりは少しだけ楽になった。けれどドレスを買ってもらったり宝石を買ってもらったりとか、そういった贅沢はさせてもらえない。せいぜいがたまの外食だ。しかも場所はその辺の食堂。

 やがて母親と義父の間に弟が産まれると、リエーヴルが共働きの両親にかわってその面倒を見なくてはならなくなった。その上、翌年にはもう一人産まれたので手がかかって仕方がない。

 弟たちは落ち着きがなく、すぐ汚い手でベタベタと触ってくるので大切な服が汚れてしまう。成人したリエーヴルが両親の反対を押し切って、酒場でアルバイトをしてようやく手に入れたお気に入りの服だってあったのに。

 仕方なく弟の子守中は汚れてもいい服を着ていた。リエーヴルはとにかくそれが嫌だった。


 ある日。リエーヴルがいつものように弟たちを連れて散歩に出かけると、道路の向こうにキレイなドレスを着た貴族の女の子たちが見えた。リエーヴルが着ているみっともないボロ服とは違い、フリルやリボンがいっぱい付いているとっても高そうなドレスだ。

 ドレスを着ている女の子達はたいして可愛くもない。あのドレスは容姿に恵まれたリエーヴルの方が絶対に似合うのに。同じように貴族の血を引いているというのに不公平だ。

 そんな風に思って女の子達を睨みつけるように見ていたら、ちょっと目を離した隙に弟二人が大きな道に飛び出して馬車に轢かれてしまった。命は助かったものの、大怪我をした二人は頻繁に体調を崩して寝込むようになった。

 弟たちから目を離したリエーヴルは両親からものすごく叱られた。けれど、どうしても納得がいかない。

 勝手に道路に飛び出したのは弟たちだ。それなのに何でリエーヴルが責められるのか。


(そもそも、どうして貴族であるわたしが平民である弟の面倒を見なくちゃいけないの? そんなことは使用人にやらせるべきじゃない。わたしはただ、貴族の子達が着ていた素敵なドレスを見ていただけよ。全部、ドレスを買ってくれない両親がいけないんじゃないの。それなのに、わたしには流行おくれのボロしか与えずたいして可愛くもない弟の世話を押し付けて。こんな生活はもうたくさん。わたしはあの子達みたいに、お洒落でキレイなドレスが着たいのよ!!)


 リエーヴルは家を出て娼館で働くことにした。他の娼婦みたいに売られてきたわけじゃない。自らドアを叩いたのだ。街で声をかけてきた男に、そこでならキレイなドレスが着られると聞いたから。

 男の人に身体を預けるだけでたくさんのお金がもらえるのだ。美しいリエーヴルならすぐに人気者になれるだろう。




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