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65 育まれる幸せな未来(ヴィクトリア視点)
しおりを挟む「リア様、どうかなさいましたか?」
「……ううん、何でもないわ」
心配そうに聞いてくる騎士団長に笑顔で答えるヴィクトリア。
ふわり…ふわり…。
また少し竜鱗が育った感覚に、ヴィクトリアが感じていた疑問が確信に変わる。
例え竜鱗を喪っても。
番との間に愛を育むことでそれは再生する。
白い結婚である騎士団長とヴィクトリアですらこうなのだ。もしも世間の噂通り息子夫婦が運命の番であったとしたら、共に竜鱗を焼いた二人の『それ』は既に再生されているのではないか。
だとすれば子が出来にくい竜人にあって、次々に家族が増えている現状に納得がいく。
それでも息子夫婦の様子はこれまでといっさい変わらないし、ロイエのように番への愛が暴走したような異常な行動も見られない。
もしもそれが竜鱗を焼いたことによる効果なのだとしたら。
番に対し湧き上がる過剰な愛をコントロール出来る方法があるのだとしたら。
それは、誰よりも父親の愚行にショックを受けていたシュタルクにとって、大きな希望になるのではないだろうか。
――ロイエが番を連れ帰ったあのとき。
番に対して湧き上がる過剰な愛を制御する方法が判明していれば。
ヴィクトリアとは別れ、周囲を巻き込むことなく番と二人穏やかな愛を育むことが出来ていれば。
ロイエが家族を裏切り浮気をしてしまった事実は変わらないとしても、魅了薬に頼ることなく誰もが幸せになる道もあったのではないか。
(――――なんて。流石に考えすぎ、かしらね)
たとえそうだとしても、ロイエ一人が変わっても意味がない。
ロイエの番は半獣人だった。種族が違い相手に竜鱗がない以上同じ方法をとることは出来ないし、余計な行動を取ったせいで更に被害が広がった可能性だってあるのだ。
種族すら越えて惹かれ合う。
『番』とは、何て不可思議な現象なのだろう。
それに、あくまでも息子夫婦の件は噂だ。世間でそうやって言われているだけに過ぎない。
そして仮に息子夫婦が真実『そう』だったとしても、兄が大好きで皇帝としての責任を誰より理解しているエクセランが黙っている以上、今はまだその時ではないという事なのだろう。
――竜人の寿命は長い。焦る必要はないはずだ。
まだ成長途中にあるヴィクトリアの胸にうまれた新たな竜鱗。それが育ち切った時にどうなるのか。
ロイエのように番への愛に狂い自滅の道をたどるのか。
湧き上がる過剰な愛を抑え込み、番と二人で相手を喪う恐怖を感じることのない、永遠とも言える穏やかな幸せを手に入れられるのか。
少し怖くはあるが楽しみでもある。それを確かめてからでも遅くはない。
――たいして時間はかからないと思うから。
激しいものではないけれど――夫と二人、日々を穏やかに過ごしているだけでヴィクトリアの胸で優しく育っていくものがある。ロイエとの結婚生活では育めなかったものだ。
今はただ、初めて感じるこの感覚を大切にしていきたい。
焦って無理に目を向けると、恋愛に対して臆病な自分も胸に産まれたばかりのソレも壊れてしまいそうだから。
大切な想いだからこそ、欲情から順番を間違えて、番への愛を暴走させたロイエのようにだけはなりたくない。
気持ちと共に日々育っていく竜鱗にそっと手を触れて。
ヴィクトリアが笑顔で顔をあげれば――。
まったく同じ位置に手をやって、幸せそうに微笑む夫の姿がすぐそこにあった。
契約で結ばれた不器用な二人が本当の夫婦になるまであと少し――――。
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