【完結】それは本当に私でしたか? 番がいる幸せな生活に魅了された皇帝は喪われた愛に身を焦がす

堀 和三盆

文字の大きさ
上 下
65 / 88

65 育まれる幸せな未来(ヴィクトリア視点)

しおりを挟む

「リア様、どうかなさいましたか?」

「……ううん、何でもないわ」


 心配そうに聞いてくる騎士団長に笑顔で答えるヴィクトリア。

 ふわり…ふわり…。


 また少し竜鱗が育った感覚に、ヴィクトリアが感じていた疑問が確信に変わる。



 例え竜鱗を喪っても。
 番との間に愛を育むことでそれは再生する。



 白い結婚である騎士団長とヴィクトリアですらこうなのだ。もしも世間の噂通り息子夫婦が運命の番であったとしたら、共に竜鱗を焼いた二人の『それ』は既に再生されているのではないか。

 だとすれば子が出来にくい竜人にあって、次々に家族が増えている現状に納得がいく。

 それでも息子夫婦の様子はこれまでといっさい変わらないし、ロイエのように番への愛が暴走したような異常な行動も見られない。

 もしもそれが竜鱗を焼いたことによる効果なのだとしたら。
 番に対し湧き上がる過剰な愛をコントロール出来る方法があるのだとしたら。

 それは、誰よりも父親の愚行にショックを受けていたシュタルクにとって、大きな希望になるのではないだろうか。


 ――ロイエが番を連れ帰ったあのとき。


 番に対して湧き上がる過剰な愛を制御する方法が判明していれば。

 ヴィクトリアとは別れ、周囲を巻き込むことなく番と二人穏やかな愛を育むことが出来ていれば。


 ロイエが家族を裏切り浮気をしてしまった事実は変わらないとしても、魅了薬に頼ることなく誰もが幸せになる道もあったのではないか。



(――――なんて。流石に考えすぎ、かしらね)



 たとえそうだとしても、ロイエ一人が変わっても意味がない。

 ロイエの番は半獣人だった。種族が違い相手に竜鱗がない以上同じ方法をとることは出来ないし、余計な行動を取ったせいで更に被害が広がった可能性だってあるのだ。


 種族すら越えて惹かれ合う。
 『番』とは、何て不可思議な現象なのだろう。



 それに、あくまでも息子夫婦の件は噂だ。世間でそうやって言われているだけに過ぎない。

 そして仮に息子夫婦が真実『そう』だったとしても、兄が大好きで皇帝としての責任を誰より理解しているエクセランが黙っている以上、今はまだその時ではないという事なのだろう。


 ――竜人の寿命は長い。焦る必要はないはずだ。


 まだ成長途中にあるヴィクトリアの胸にうまれた新たな竜鱗。それが育ち切った時にどうなるのか。

 ロイエのように番への愛に狂い自滅の道をたどるのか。
 湧き上がる過剰な愛を抑え込み、番と二人で相手を喪う恐怖を感じることのない、永遠とも言える穏やかな幸せを手に入れられるのか。

 少し怖くはあるが楽しみでもある。それを確かめてからでも遅くはない。

 ――たいして時間はかからないと思うから。


 激しいものではないけれど――夫と二人、日々を穏やかに過ごしているだけでヴィクトリアの胸で優しく育っていくものがある。ロイエとの結婚生活では育めなかったものだ。
 今はただ、初めて感じるこの感覚を大切にしていきたい。

 焦って無理に目を向けると、恋愛に対して臆病な自分も胸に産まれたばかりのソレも壊れてしまいそうだから。

 大切な想いだからこそ、欲情から順番を間違えて、番への愛を暴走させたロイエのようにだけはなりたくない。



 気持ちと共に日々育っていく竜鱗にそっと手を触れて。
 ヴィクトリアが笑顔で顔をあげれば――。


 まったく同じ位置に手をやって、幸せそうに微笑む夫の姿がすぐそこにあった。



 契約で結ばれた不器用な二人が本当の夫婦になるまであと少し――――。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

処理中です...