63 / 88
63 番の祝福(ヴィクトリア視点)
しおりを挟む島に来た当初。
愛する伴侶を喪ったラフィネの落ち込みようは凄まじく『番であればもっと長く一緒に居られたのに』と呟いているのを聞いた時、ヴィクトリアは驚いた。
番に惑い家族を裏切った父親を軽蔑し、『番』に対し嫌悪感を抱いていた娘の口からそんな言葉が出るなんて――――と。
けれど、ヴィクトリアは娘から語られる人間の夫との短くも愛情深い思い出話を聞いているうちに、女神様から与えられる『番の祝福』とは本来こういうものなのかもしれない――と思うようになった。
娘と人間であるその夫は『運命の番』ではなかったが、もしも二人が番であれば、番った時点で相手の寿命は延びて、竜人である娘と同じ時間を生きることが出来る。
寿命の長い竜人。
愛する者といつまでも共にありたい――愛する者同士のそんな切実な願いを女神様が聞き届けて下さったのが『番』の祝福なのではないか――と。
一年程ヴィクトリア達と共にこの美しい島で過ごしたラフィネは『夫の墓参りがしたいから』と帰って行った。
『短くはあったけど、私は生涯あの人に愛されたし、私もそんなあの人を支えながら全力で愛したわ。全ての面倒を私が看たの。その一つ一つが大切な思い出よ。たとえ年老いて彼の姿形が変わっても、最期の瞬間まで私はあの人のことを愛し抜いたのだもの!』
そんな風に胸を張って、笑顔で島を後にする娘の姿をヴィクトリアは眩しく思った。
「…それで、ラフィネの手紙にはなんて?」
「それは『秘密にしてくれ』と言われたので内緒です。……でも、ラフィネ様はもう大丈夫ですよ。周囲を気遣う余裕が出てきたようですから。相変わらずシュタルク様は縁談から逃げ回っているみたいですけれどね」
「……そう」
――残念ながら。シュタルクの方はまだそんな風に心動かされるようなお相手とは出会えておらず、相変わらずエクセランの補佐に心血を注いでいるらしい。
長男として生まれ、その後弟に産まれ直しても、小さな弟を守り切れなかったことを気に病み続けていた責任感の強いシュタルク。彼は皇帝となったエクセランを支えていく道を選んだらしい。
結婚だけがすべてではないし、仕事に生きる人生も素晴らしいと思う。
けれど、もしヴィクトリアとロイエのせいで受けた心の傷が原因だとすれば――――同じ痛みを持つエクセランやラフィネが心を許せる相手を見つけたように、いつかあの子にもそんな相手が現れてくれればいいのに――と、ヴィクトリアは切に願う。
あの子が毛嫌いしているロイエやその番のように、愛する相手と結ばれるために邪魔な物を排除し、燃やし尽くすような激しい思いじゃなくていいから。
お互いを尊重できるような、優しく穏やかな幸せを育めるような相手と出会えれば――――。
そんなことを考えていたら。
突然、胸のあたりにふわりとくすぐったいような感覚がして、ヴィクトリアはその場所に優しく触れた。
133
お気に入りに追加
2,714
あなたにおすすめの小説
彼女が心を取り戻すまで~十年監禁されて心を止めた少女の成長記録~
春風由実
恋愛
当代のアルメスタ公爵、ジェラルド・サン・アルメスタ。
彼は幼くして番に出会う幸運に恵まれた。
けれどもその番を奪われて、十年も辛い日々を過ごすことになる。
やっと見つかった番。
ところがアルメスタ公爵はそれからも苦悩することになった。
彼女が囚われた十年の間に虐げられてすっかり心を失っていたからである。
番であるセイディは、ジェラルドがいくら愛でても心を動かさない。
情緒が育っていないなら、今から育てていけばいい。
これは十年虐げられて心を止めてしまった一人の女性が、愛されながら失った心を取り戻すまでの記録だ。
「せいでぃ、ぷりんたべる」
「せいでぃ、たのちっ」
「せいでぃ、るどといっしょです」
次第にアルメスタ公爵邸に明るい声が響くようになってきた。
なお彼女の知らないところで、十年前に彼女を奪った者たちは制裁を受けていく。
※R15は念のためです。
※カクヨム、小説家になろう、にも掲載しています。
シリアスなお話になる予定だったのですけれどね……。これいかに。
★★★★★
お休みばかりで申し訳ありません。完結させましょう。今度こそ……。
お待ちいただいたみなさま、本当にありがとうございます。最後まで頑張ります。
異世界で狼に捕まりました。〜シングルマザーになったけど、子供たちが可愛いので幸せです〜
雪成
恋愛
そういえば、昔から男運が悪かった。
モラハラ彼氏から精神的に痛めつけられて、ちょっとだけ現実逃避したかっただけなんだ。現実逃避……のはずなのに、気付けばそこは獣人ありのファンタジーな異世界。
よくわからないけどモラハラ男からの解放万歳!むしろ戻るもんかと新たな世界で生き直すことを決めた私は、美形の狼獣人と恋に落ちた。
ーーなのに、信じていた相手の男が消えた‼︎ 身元も仕事も全部嘘⁉︎ しかもちょっと待って、私、彼の子を妊娠したかもしれない……。
まさか異世界転移した先で、また男で痛い目を見るとは思わなかった。
※不快に思う描写があるかもしれませんので、閲覧は自己責任でお願いします。
※『小説家になろう』にも掲載しています。
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る
紺
恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。
父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。
5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。
基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。
愛を乞う獣【完】
雪乃
恋愛
「愛してる、ルーシー」
違う誰かの香りをまとって、あなたはわたしに愛をささやく。
わたしではあなたを繋ぎ止めることがどうしてもできなかった。
わかっていたのに。
ただの人間のわたしでは、引き留めることなどできない。
もう、終わりにしましょう。
※相変わらずゆるゆるです。R18。なんでもあり。
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
竜王陛下の番……の妹様は、隣国で溺愛される
夕立悠理
恋愛
誰か。誰でもいいの。──わたしを、愛して。
物心着いた時から、アオリに与えられるもの全てが姉のお下がりだった。それでも良かった。家族はアオリを愛していると信じていたから。
けれど姉のスカーレットがこの国の竜王陛下である、レナルドに見初められて全てが変わる。誰も、アオリの名前を呼ぶものがいなくなったのだ。みんな、妹様、とアオリを呼ぶ。孤独に耐えかねたアオリは、隣国へと旅にでることにした。──そこで、自分の本当の運命が待っているとも、知らずに。
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる