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62 島での生活(ヴィクトリア視点)
しおりを挟む当初、ヴィクトリアは夫であるズィーガーに対し、騎士団長としての職を辞すことを考え直すように言った。
しかし、彼は頑としてそれを聞き入れなかった。
竜人国家として圧倒的な力を誇るドラゴディス帝国は近年周辺国との間に大きな戦争もなく、また、魔物に関してもあちらの方で勝手に避けてくれるので、騎士と言ってもドラゴディス本国では護衛や治安維持の為の任務ばかりで、せっかく磨き上げた剣の腕を試す場がなかった。
そんなこともあり、時折、身の程知らずに襲ってくる魔物の対処を求められるこの島国での仕事はズィーガーとしてもやりがいがあるのだそうだ。
そうまで言われてはヴィクトリアとしても反対することは出来ない。
一方でやや脳筋で書類仕事は不得意なズィーガー。討伐はズィーガーが、書類仕事や家事はヴィクトリアが担当することにして、二人の契約結婚は今も続いている。
今日は地元の漁師から沖合に魔物がうろついているから対処してほしいとの相談があり、早速昼から討伐に出ていたのだが夕方前には終わったようだ。
「お帰りなさい、ズィーガー。討伐お疲れ様。あちらから取り寄せた新聞を読んでいたの。子供達は元気にやっているみたい」
「そうでしたか。ラフィネ様も随分落ち着かれたようですよ。私宛にお礼の手紙が届きました」
「まあ、本当に? それは良かったわ。……それにしてもあの子ったら私には手紙一枚よこさないのに、貴方にはしょっちゅう連絡をよこすのね。まったく嫌になっちゃうわ」
「フフ……女の子は男親に懐くものですからね。役得です」
そう言って娘から届いたという手紙を懐からチラリと見せてくる夫だが、すぐに懐に戻してしまい、ヴィクトリアに中身を見せてくれる気はないらしい。夫にばかり手紙を書いてよこす娘に拗ねて見せるが本気ではない。
――――元気が出たようでなによりだ。
つい先日まで。ヴィクトリアの娘であるラフィネはこの島で静養していた。
外交の為にドラゴディス帝国へとやってきた人間の貴族と大恋愛の末に結ばれたラフィネ。人間ばかりが暮らす他国へ嫁ぎ、人間の夫と共に仲睦まじく暮らしていたが――500年を優に生きることの出来る竜人と人間との寿命の差はどうすることも出来ず、70年程で愛する夫に先立たれてしまった。
ただでさえ子の出来づらい竜人だ。しかも、人間である夫とは種族が違う。そのせいか仲が良いものの娘夫婦には子供がいなかった。夫を喪った寂しさから気落ちしている様子なので、島に呼び寄せて共に暮らしていたのだ。
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