【完結】それは本当に私でしたか? 番がいる幸せな生活に魅了された皇帝は喪われた愛に身を焦がす

堀 和三盆

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61 契約結婚(ヴィクトリア視点)

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「どうされたのですかリア様。そんなに嬉しそうに」

 海に面したテラスでヴィクトリアが本国から取り寄せた新聞を読んでいたら、一仕事終えたらしい夫がやってきた。

 最初に表舞台から退いた際に、ヴィクトリアはエクセランから新たな名と戸籍を貰っていた。

 皇后ヴィクトリアから――低位貴族の『リア』へ。

 正体を隠すために与えられた偽の身分だが、新しく戸籍を用意するにしても、高位貴族は家族構成が詳しく知れ渡っているので誤魔化すのは難しい。なので、ヴィクトリアに用意された戸籍は子爵家のものだ。

 低位の貴族は庶民と縁を繋ぐことも多いのである程度の自由が利く。けれど城内に出入りし、日常的に皇族とかかわるにはやはり高位貴族の方が都合が良い。

 そこで協力者となったのが騎士団長だった。

 騎士団長のズィーガー・ヒンタ―ハルトは低位貴族から伯爵位へと腕一本でのし上がった実力者だ。元低位貴族出身であるという経緯から身分が下の者との婚姻も不自然ではないし、何より高位貴族としては横のつながりも薄い。
 なので、遠縁の子爵家の娘を娶ったという形にして、ヴィクトリアこと‘リア’は伯爵夫人として城内を堂々と出入りしていたのだ。

 魔道具を使って姿も変えていたので、正体を知っているのは家族の他はロイエから引き継いだエクセランの側近と、一部の使用人だけ。

 騎士団長との婚姻はあくまでもヴィクトリアの身分を誤魔化すためのものなのでこれは『契約結婚』だ。
 それゆえ長く夫婦をやっていてもその関係は清いままだった。

 このままいつまでも騎士団長を縛り続けるわけにはいかない――そう思ったヴィクトリアは次期皇帝となる孫の成長を見届けたところで、いい機会だからとエクセランの相談役としての役目を終えた。

 その後は夫や家族と別れドラゴディス帝国から遠く離れた小さな島国で穏やかな老後を過ごす――つもりだったのだが。

 何故か、そこに夫である騎士団長までもが職を辞してまでついてきたのだ。




 海の真ん中にあるこの美しい島は耐えず魔物の襲撃に晒されていた。

 人間ばかりが住んでいるこの島はそれに対抗する手段がなく、自らドラゴディスに保護を求めてきたという経緯がある。竜人が持つ強い魔力は魔物を遠ざけることが出来るからだ。

 竜人が一人住んでいるだけで島の平和が守られるので、今ではこの島国はドラゴディス帝国が統治する支配国の一つとなっている。

 美しく平和な国ではあるのだが島にはこれと言った産業もなく、また娯楽もない。唯一ある利点と言えば魚介が新鮮ですごく美味しいということくらいか。

 仕方なく年老いた高官が交代で駐在していたのだが、最近はその希望者が減っていた。そこに‘リア’となったヴィクトリアが『私がやります』と立候補したのだ。

 なので、現在この島にはヴィクトリアと共に、何故か付いてきた騎士団長――元騎士団長のズィーガーが夫婦で暮らしている。




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