【完結】それは本当に私でしたか? 番がいる幸せな生活に魅了された皇帝は喪われた愛に身を焦がす

堀 和三盆

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60 そして――(ヴィクトリア視点)

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 夫を喪ったヴィクトリアが表舞台から完全に姿を消したことにより死亡説が囁かれ、そのお陰でエクセランの治世はより盤石なものとなった。

 たとえ揺らいでいた帝国が持ち直し治世が安定したとしても、どうしても番に狂ったロイエの醜聞はその息子であるエクセランに付きまとう。

 けれどヴィクトリアが姿を消しその死亡説が流れたことにより、皇帝ロイエの番はやはり皇后ヴィクトリアであったのだと、番が死んだことによりヴィクトリアもまた死んだのだと、魅了魔法を使った性悪な女に騙され愛し合う運命の番は引き裂かれてしまったのだと、そんな風に判断されてロイエの名誉は回復された。


 民を虐げていた加害者から運命の番と引き裂かれた悲劇の被害者へ。


 それによりエクセランにつきまとっていた親世代の醜聞は完全に消えた。

 全てはロイエの後を継いだエクセランが計画したことだ。優しく気の弱いところが目立っていたエクセランだが、悪意に翻弄され実の父親に焼き殺されたり、偽りの幸せの中で育ったりと、二度にわたりハードな子供時代を経験したせいか策略的なところは長けているらしい。

 実際の所、ヴィクトリアは表舞台から姿を消しただけで、姿と名前を変え、側近の一人としてエクセランに助言をしながらそれまで通り城内で忙しい生活を送っていた。

 そしてエクセランが自分で選んだ伴侶と婚姻し、最初に産まれた孫が成人して帝国が安泰となったところで、ヴィクトリアは今度こそ本当に姿を消した。


 ロイエの死が発表されてから、200年程が経った時のことだった。






 ――現在。帝国内は皇帝夫婦の間に新たに誕生した子供の話題で盛り上がっている。

 エクセランが選んだのは年下の伯爵家の御令嬢。結婚は遅かったがすぐに子宝に恵まれて、その後もおめでたい話題が途切れることはない。今回産まれたのは6番目の孫だったか。

 番以外とは子が授かりにくい竜人。

 それなのに、皇帝夫婦の間にこうもおめでたい話題が続くのは実は皇帝夫妻が運命の番だからでは――なんてうわさが実しやかに流れているらしい。

 ドラゴディスから遠く離れた小さな島国で。数カ月遅れの帝国で発行された新聞を読んで、ヴィクトリアは口元に笑みを浮かべた。


 皇帝の地位に在る者として。番であるかどうかにかかわらず、嫁いでくる伴侶を全力で愛したい――そんな信念の下に、番を感知する器官である竜鱗を自ら焼いたエクセラン。


 そして、そんなエクセランの考えに賛同し、自らも竜鱗を焼いた年若い息子の嫁。婚約式の当日に、その場で行動に出た勇ましい姿は今も忘れられない。

 息子の婚約者はその時に負った火傷の影響で高熱を出して、エクセランとの婚約早々城内で治療を受けることになった。

 熱が下がるまでの約一カ月間。エクセランは一日に何度も婚約者の様子を見に部屋を訪れていた。

 最初は突然の暴挙に怒ったように。けれど見舞いの回数を重ねる度に、それまでの硬い表情がまるで嘘のように嬉しそうに緩んでいくのを、皆が微笑ましく見守っていたのだ。
 結婚してからそれなりの時間が経つが二人は今も仲が良く、まだまだ家族は増えそうだ。

 周囲が番だ何だと騒いでも、竜鱗を焼いた二人はどこ吹く風らしい。

 子沢山なのは珍しくはあるが、番ではないヴィクトリアとロイエの間にも三人の子供が授かったのだ。ただ単に相性がいいだけかもしれない――し、そうじゃないかもしれない。

 新聞に載った仲睦まじい息子夫婦の写真をそっと撫でて、ヴィクトリアは遠く離れた愛しい我が子に思いを馳せる。




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