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59 子供の成長(ヴィクトリア視点)
しおりを挟むロイエの死は一定期間秘匿され、即位に必要な教育を最短で終えたエクセランが帝位を継ぐのと同時に発表された。
そして皇帝となったエクセランはドラゴディスの成人年齢を迎えるとすぐに、まだ成長途中にあった竜鱗を自らの意志で焼いた。
ヴィクトリアはエクセランがそんな過激な行動を取ったことに驚いた。そして、その数年後に成人年齢を迎えた双子達がそれとは逆の選択をしたことを意外に思った。
正直、そのような大胆な行動をとるとしたら、当初は怯えながらも最終的には父親に懐いていたエクセランではなく、番に溺れたロイエに反発し、『番』という存在自体に嫌悪感どころか憎しみすら抱いている双子の方だと思っていたからだ。
不思議に思ったヴィクトリアがエクセランにそれを尋ねたら『母上、それは逆ですよ』と言われてしまった。
「逆とは?」
「番に溺れた父上を許容してしまうようなどこか甘いところがある私にこそ、番を求める本能に流されないような絶対的な歯止めが必要なのです。けれど、父上の行動に一貫して拒絶の姿勢を示し、最初から番に対し強い不信感を持っている兄上達には祝福を受ける権利がある。……それを望んでいないお二人には申し訳ないですけれど」
エクセランによれば、これは権力バランスを考えての行動でもあるのだと言う。竜人や獣人にとっては『番』の存在はやはり特別だ。番を得れば竜人として力を増すし、特に権力欲の強い貴族の中には頑なにそれにこだわる者もいる。
けれど醜悪な番に溺れたロイエの愚行は記憶に新しく、帝国民や支配している国へ与えてしまった被害は無視できない。
だからロイエの息子であり皇帝となったエクセランが自戒と禊の意味を込めて自らその大切な竜鱗を手放すことで民や貴族の留飲を下げ、その一方で下の二人は竜鱗を維持することで番賛成派にも配慮をする。そんな考えがあったのだとか。
実際、双子もエクセランに続いて嬉々として竜鱗を焼こうとしていたそうだ。けれどエクセランにそうやって頼まれたことで、渋々温存することを頷いてくれたらしい。
その代わり竜鱗を残したどちらかが番に惑い暴走した場合には、残されたもう一方が無理にでも竜鱗を焼いて相手を止めるよう、双子の間で取り決めをしているのだとか。
守るべき対象だった子供達は既にヴィクトリアの手を離れ、民の為になるようにと色々なことを考えているらしい。
帝国は哀しい過去を切り捨て、幸せな未来に向かって新たな歩みを始めているのだ。
ヴィクトリアがそうあるべきと望んだその通りに。
それから数年。
ヴィクトリアは突如として表舞台から姿を消した――。
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