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54 残酷な真実

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『悪く思わないでくださいな、陛下。番を喪いおかしくなった貴方が居ると、民がいつまでたっても救われないの。今は魅了薬のお陰でギリギリ理性を保てていても、完全に耐性が出来ればそのうち暴走して手が付けられなくなるわ。その証拠に段々と感情が制御できなくなってきているでしょう? 本当は離宮に火をつけてやり返そうかとも思ったのだけれど……国民の血税をそんな下らないことに使えないでしょう? 貴方や貴方の番じゃあるまいし。だから、少し離れたこの場所にその為の部屋を用意させてもらったの。豪華な離宮じゃなくて申し訳ないけれど、思い出のベッドを用意させたから最期まで陛下の愛する番とお幸せに。ああ、そうそう、言い忘れる所だった。最後に教えてあげる』


 ゴオオオオォ……
 ゴオオオオォ……


 壁が燃え上がり炎も部屋も真っ赤だ。四方どころじゃない。上も下も火竜の魔石で出来ていた。ヴィクトリアは本気でこのままロイエを焼き殺す気なのだろう。
 煙に巻かれほとんど何も見えないが、手元を探ると心休まる何かが指先に触れる。

 それを必死に手繰り寄せ煙に巻かれよく見えぬ目を凝らせば、それは先ほどの骨片だった。


『あのね、私が使っていた魅了薬の原材料は番を見つけた者の血と骨よ。使い方は香水のように振りかけるだけでいいけれど、薬を作るのに欲に踊らされる肉は要らないの。顔と胴体部分も要らないわ。ソレがあると別人だと判ってしまう可能性が上がるから。だからそこに在るソレは本当に使い道のなかった残り物なの』


 妻を虐げ国を荒らし子供を手にかけてまで欲したソレをロイエは胸に抱いた。その途端、頭がぼんやりとしてほんの少し絶望感が和らぐ。


 そうだ、自分は悪くない。全ては愛する番が望んだから――。


 そんなロイエの幸せな夢は長くは続かない。

 炎と熱でロイエが縋った残り物は徐々にその形を喪い、最後に残ったのは痛みと絶望と終わりの見えない後悔だった。


 どうして、どうして自分だけが――ああ、違う。これはロイエが先にやったことだ。妻と子供を同じ目に遭わせた報いを受けている。ベッドの下を覗き込めばあの時使用した魔道具があるはずだ。

 ロイエに取り付けられていた足枷は、あの魔道具を発動させるのに必要な魔力を奪う為のものだったのか。他ならぬロイエ自身の魔力によって、この小さな棺に閉じ込められてしまったのだ。


 ――ロイエが連れ帰った番と共に。


 けれど――本当に、本当にロイエはヴィクトリアが好きだったし、番であればと信じていたのだ。子供が出来て幸せだったし、生涯愛する妻と子供達を守り、慈しみ生きて行こうと思っていた。

 あのとき番を見つけるまでは―――――。



 ……あの女に出会って体を重ねてしまえばもう彼女と彼女の幸せの為にしか動けなくなった。
 他のことなどどうでもよくなった。


 番と出会ったからおかしくなった。
 番と出会ったから抗えなかった。
 それなのに何故ロイエだけが責められるのか。


「私は悪く……ない。番が――番と出会ったのが……悪いんだ。番と出会ったら誰――だってこうなるんだ。ヴィクトリアだって――番と出会えば」

『出会ったわよ』


 …は……?

 予期せぬヴィクトリアからの言葉に、ロイエは目を見開いた。




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