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51 最期の言葉(ヴィクトリア視点)

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 不自由ながらも離宮に送られてから一年程は穏やかに暮らせていた。産まれてから、いいや、産まれる前から苦労続きのエクセランにとって、この一年が一番幸せだったに違いない。

 どこに監視がいるのか分からないから料理人や使用人を雇ったり等のあまり大掛かりなことは出来ないが、ヴィクトリアの家事の腕も上がったし、育ち盛りの子供達もヴィクトリアが作った料理を大いに食べてくれた。たとえ失敗したとしても、それはそれでみんなで笑い合っていれば食は進む。

 その日も家族みんなが忙しく働いた。

 ヴィクトリアは執務の傍ら家事を行い、上の二人は皇太子教育や皇女教育の傍ら幼い弟の面倒を見てくれて、夜はお腹いっぱいご飯を食べてぐっすりと眠った。


 ヴィクトリアが『ソレ』に気付いたのは深夜。


 ヴィクトリアがここにある筈のない不快な魔力を感じとり目を覚ませば、離宮が火に包まれるところだった。

 火の不始末ではない。離宮の周囲に火竜の魔石が積み上げられており、まるで逃げ道を塞ぐように一斉に火の手が上がったのだ。急いで寝ている子供達を起こし魔法で火を消しながら外へ出ようとしたが、何故かそれは叶わなかった。

 出口が見えてあと少し、というところで一番火の勢いが強いヴィクトリアの部屋へと戻されてしまうのだ。子供達だけでも逃がそうとしてもそれすら叶わず、何度も繰り返すうちにやがて体力と魔力が尽きて動けなくなった。


『悪く思うなよ、ヴィクトリア。お前が居るから、民が番の魅力に気付けないんだ……! 番との暮らしにお前達は邪魔なんだよ』

『ごめんねぇ~。でもぉ、あさましく国民に媚びる皇后サマが悪いのよ? そのせいで比べられてわたしが悪く言われちゃうんだからぁ』


 部屋に響くロイエと嘲るような番の声。


 後で知ったことだがヴィクトリアの部屋に監視と脱出防止の魔道具が付けられていたらしい。声はその魔道具により届けられたものだった。

 それはかつての皇帝が執着した人間の番を閉じ込めるために作らせたもの。その危うさから現在は使用が禁止されているが、厳重に保管されていた物をロイエが持ち出したのだろう。誰にでも使える訳ではない。魔道具を発動する為には皇帝が持つ豊富な魔力が必須となっている。

 昼間、ヴィクトリアが部屋を掃除したときに異常はなかった。設置されたとすれば食事作りに部屋を離れた時だ。

 そしてヴィクトリアと子供達が力尽き、部屋から一歩も動けなくなったところで届けられたロイエと番の声。あまりにもタイミングが良すぎる

 つまり――監視と監禁、二つの魔道具を設置しヴィクトリアの部屋に声を届けた犯人は今もすぐ近くで見ている。そして、おそらく火をつけたのも皇帝であるロイエ本人だ。

 ヴィクトリアが離宮のあちこちで感じたロイエの魔力は気のせいではなかったのか。



 ち ちう……え ど ぅ……し て………



 ヴィクトリアが意識を失う寸前に聞いたのは。

 ロイエの醜悪な本音と、それを聞いて父親を呼ぶ子供達の――こと切れる寸前の小さな声。



 半死の状態で燃え盛る離宮から助け出されたヴィクトリアが目を覚ましたときには――全てを喪った後だった。




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