【完結】それは本当に私でしたか? 番がいる幸せな生活に魅了された皇帝は喪われた愛に身を焦がす

堀 和三盆

文字の大きさ
上 下
49 / 88

49 離宮での暮らし(ヴィクトリア視点)

しおりを挟む

「…母上。いったい父上はどうされてしまったのでしょうか……?」


 ロイエの命によりヴィクトリアと三人の子供達は離宮へと移された。

 国は荒れ、管理の行き届かない離宮は傷みが酷い。ヴィクトリアの実家に頼み、外からは分からぬように最低限の補修はしてもらったが、快適とは程遠い。

 かつての煌びやかな状態を知っている長男のシュタルクは以前と比べ荒れ果てた薄暗い離宮を見てふとそんな言葉を口にした。


 おそらくかつて立派だった離宮と父親であるロイエとを重ね合わせてのことだろう。
 外交に出て番を連れ帰るまでは、皇帝としてそれくらい立派で、また子煩悩な父親だったから。


 その荒廃ぶりに見る影もないのはこの離宮もロイエも同じ。補修ができない分だけロイエの方が質が悪い。それをすぐ傍で見てきた子供達の心情を思うと、ヴィクトリアは胸が痛んだ。


「……ごめんなさいね、シュタルク。陛下との離縁が成立して私の実家へあなた達を連れていければそれが一番良かったのだけれど。継承権の問題があるからと、どうしても許可が下りなかったの。……だから今日からはこの離宮で、貴方達は皇太子教育と皇女教育の続きを受けることになるわ」

「かまいません、母上。勉強などどこででもできます。むしろ余計な雑音がない分、ここの方が集中できるのではないでしょうか」

「そうよ、お母様。お兄さまの言うとおりだわ。それに、わたしこの場所が好きよ! お父さまとイジワルなあの女のいるお城なんかより、お母さまとお兄さまと小さなエクセランとわたしだけの、この場所の方がよっぽど気楽だもの。ええと、ふうき…? だったかしら。とにかく、それのみだれたあっちはエクセランの教育上もよくないと思うの!」

「母上、ラフィネの言うとおりです。家族は俺達だけで充分です。母上も妹も弟も――そして苦労を強いている帝国民も。おかしくなってしまった父上の代わりに、俺がこの手で守れるように皇太子教育を一刻も早く終えられるよう頑張ります」

「あら、お兄さま。わたしだって頑張るわ! お母さまが頑張ってお仕事をしている間、エクセランのお世話はこのわたしにまかせてちょうだい。勉強も……まあそれなりに頑張るわ!」

「シュタルク……ラフィネ……」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

あなたの運命になりたかった

夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。  コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。 ※一話あたりの文字数がとても少ないです。 ※小説家になろう様にも投稿しています

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...