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43 最後の別れ

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「父上、母上、お気をつけて。後のことは全て私にお任せください」

「ああ。頼んだぞ、エクセラン――」


 全ての準備を整え離宮へと出発する日。正式に皇太子となった長男のエクセランとその弟妹の双子が正装で二人を見送ってくれた。

 その姿を見て、ロイエの胸に熱い物がこみあげてくる。


(この子たちは……あの悲劇の後に産まれた、この国にとっては未来の象徴だ。ついこの間まで赤子だったというのに、何と立派に育ったことだろう――)


 勿論、長命を誇る竜人としてロイエはまだまだ若いし、実際に国を譲るのはずっと先のことになる。しかも、女神様の手を離れているとはいえ、エクセランはまだ成人前だ。

 こんな歳若いうちから皇帝代理を任せることに不安は残るが――何事も経験だ。いち早く実務を学ぶことはそう悪い事じゃない。


 それに、ロイエとヴィクトリアが滞在する離宮はこの城からそう遠くもない。いざとなればロイエの指示を仰ぐべく、連絡が来るだろう。


「シュタルクにラフィネ。お前たちもしっかりと兄を支えるようにな」

「……はい。父上に言われずともそのつもりです」
「勿論ですわ、お父様。後のことは何も心配いりません」


 皇子教育皇女教育が始まりみるみるうちに知識を身に付けていく双子たち。二人が幼い頃はロイエの魔力に怯えているのか近づいてこなかったが、今では拙いながらもロイエの魔力を押し返そうとする様子すら見られる。頼もしいことだ。

 その能力と成長の速さばかりが目についたが、確かにこの二人が居れば、優しく少々頼りないところがあるエクセランも立派にロイエの代理を務めることが出来るだろう。


「陛下。そろそろ参りませんと、日が暮れるまでに宿に着けませんわ」

「あ…ああ、そうだな、ヴィクトリア。それじゃあ、お前たち後のことは頼んだぞ」


「あ……はい。父上…その、どうか――どうかお元気で」
「行ってらっしゃいませ」
「良い旅路を――」


 しっかりしているようでやはりいざとなると甘えが見えるエクセランと、どこかサバサバしている双子。
 同じ兄弟で同じような教育をしていても、こうも違いがあるのかと面白く感じるがそれぞれに成長が楽しみでもある。

 短い期間とはいえ子供達から目を離すのが惜しいような気がして――ロイエは何故か感傷に浸っている自らに苦笑いをする。


(何、今生の別れという訳でもあるまいし)


 優しく、気弱で――空気を呼んで流されてしまうところがあるエクセランと父親にすらあまり甘えようとせず警戒心駄々洩れの双子たち。

 自分の血を受け継ぐ子供達の姿をしっかりと目に焼き付けて――仕事を離れしばしの休息をとるために、ロイエは愛するヴィクトリアと共に離宮へと向かう馬車へ乗り込んだ。



 これが、最後の別れになるとも知らないで――。




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