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39 拒絶

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 後継となるエクセランが授かるまで。あれほどロイエを誘い求めていたというのに、相変わらずヴィクトリアはそんな行為とは無縁のように清廉で美しい。

 ロイエは逸る心を内に抑え、愛する妻に唇を寄せるとスッと滑らかな美しい手でその行為を阻まれた。可愛らしい抵抗に焦れて構わず押し倒そうとすると、


「……申し訳ありません皇帝陛下。明日は捨てられ妻達の保護施設での公務が入っておりますので、そのような行為は。その……些細なきっかけで辛い過去を思い出し取り乱す者もおりますゆえ」

「あ……ああ、そうか」


 捨てられ妻……その響きに忘れかけていたロイエの心臓が縛られる。

 捨てられ妻の保護施設はその名の通り、既に結婚しているにもかかわらずパートナーが番に出会ったことで暴走してしまい、その立場を不当に追われて傷つけられた妻たちの再出発を支援する施設だ。


 元凶となるのは番に魅入られてしまった夫たち。
 そう、まさに少し前までのロイエのような――。



 そんなつもりはなかった。騙されていた。
 悪いのは全てあの女――

 反射的に言い訳は次々に浮かぶがここでそれを言っても意味はない。ロイエはそれほどのことをヴィクトリアにしたのだから。

 それに、ヴィクトリアにしてもそんな謝罪を求めているわけではないだろう。非常に現実的な問題なのだ。

 ロイエがやってしまったことは国民にも知れ渡っている。身体の交わりはお互いの魔力も影響を受けるので、たとえロイエが同行せずともヴィクトリアに交じったロイエの魔力を感じ取れば辛い過去を思い出しパニックを起こす者が居てもおかしくはない。

 皇帝として、ロイエの魔力もまた帝国民には本能的に刷り込まれているから――。


「……ならば仕方ない。明日の出発は早いのだろう? 今夜はゆっくりと休むがよい」

「はい。お気遣いありがとうございます。お休みなさいませ、陛下」


 ニッコリ……。


 直前まで交わされていた会話のせいだろうか。いつも通りに微笑んでくれているのにヴィクトリアから自分が責められているような居心地の悪さを感じ、ロイエは目を逸らす。


 カチャ、パタン……。


 そうしている間に。

 夫婦の寝室からヴィクトリアの部屋へと続くドアが開かれ閉められた。




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