【完結】それは本当に私でしたか? 番がいる幸せな生活に魅了された皇帝は喪われた愛に身を焦がす

堀 和三盆

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37 心配事

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「さあ、二人とも。火はきっともう大丈夫だから、父上にご挨拶して先生のところへ戻ろうか」

「……しつれいいたします、ちちうえ」
「しつれいいたします、ちちうえ……」


「…………」
 挨拶をして去って行く子供達。一瞬。シュタルクがロイエにチラリと妙な視線を走らせ、兄に促されるままに元来た道を戻って行く。


 成長がみられるエクセランとは違い、双子は相変わらずロイエが近づくと警戒して身構える。

 エクセランの時はすぐにロイエの魔力に慣れて懐いたが、双子は決して怯えたような態度を崩さず、ヴィクトリアやエクセランがいるとき以外はロイエに近寄ろうとしない。

 そのせいだろうか。エクセランは敏感にそれを察知すると怯える双子の前に立ち、ロイエの視線を遮り双子を庇う。

 かと思えば双子は双子で、先ほどのようにロイエへの警戒を怠らない。特にシュタルクからは敵意めいたものを感じることすらある。
 双子は双子で兄を守っているつもりらしい。

 ……何から守っているのかはまったくもって分からないが。


 一人っ子だったロイエはそんな子供達の微笑ましい兄弟愛を羨ましく思う反面、少しだけ心配にも思う。



 エクセランは七つを越えて無事に一人前の竜人となった。不安定で七つまではいつ女神様の元に召されるか分からない竜人の子供だが、このくらいの歳になれば最低限の身を守る能力も身に付き、よほどのことがない限り不慮の死は避けられる。

 よって、子供時代の終了と共にエクセランの皇太子教育が始まったのだが。どうしたことか、下の双子がその授業に入り込むようになった。

 実の父親すら警戒していた先ほどのように、双子は何故か兄であるエクセランをやたらに心配して世話を焼く。兄が受けている授業に入り込むのも、七つになったばかりのエクセランが皇太子教育でケガをしないかを心配してのことらしい。

 皇太子教育が始まったと言ってもまだほんの最初の部分だし、その辺りだと皇子教育や皇女教育と共通した部分も多いので、授業に入り込んだ双子については安全に十分配慮した上で、予習としてエクセランと共に受けさせることにしている。


 それだけなら特に問題はない――のだが。


 どうしたことか、弟であるシュタルクの出来が良すぎるのだ。

 教育係から話を聞いた限り、明らかにシュタルクの方が理解が早い。まるで予習でもしているかのように先回りをして、理解が追いつかないエクセランの面倒を見ているらしい。
 シュタルクの方がエクセランよりも年下であるはずなのに――。

 そして、それはラフィネも同じだった。ダンスやマナー、エクセランが苦手なところをさりげなく助言したりする。


 どう考えても弟や妹の方が出来が良い。


 将来、皇帝の座を巡って兄弟間で後継者争いなどが起こらねば良いが――と、ロイエはそれを心配しているのだ――。




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