37 / 88
37 心配事
しおりを挟む
「さあ、二人とも。火はきっともう大丈夫だから、父上にご挨拶して先生のところへ戻ろうか」
「……しつれいいたします、ちちうえ」
「しつれいいたします、ちちうえ……」
「…………」
挨拶をして去って行く子供達。一瞬。シュタルクがロイエにチラリと妙な視線を走らせ、兄に促されるままに元来た道を戻って行く。
成長がみられるエクセランとは違い、双子は相変わらずロイエが近づくと警戒して身構える。
エクセランの時はすぐにロイエの魔力に慣れて懐いたが、双子は決して怯えたような態度を崩さず、ヴィクトリアやエクセランがいるとき以外はロイエに近寄ろうとしない。
そのせいだろうか。エクセランは敏感にそれを察知すると怯える双子の前に立ち、ロイエの視線を遮り双子を庇う。
かと思えば双子は双子で、先ほどのようにロイエへの警戒を怠らない。特にシュタルクからは敵意めいたものを感じることすらある。
双子は双子で兄を守っているつもりらしい。
……何から守っているのかはまったくもって分からないが。
一人っ子だったロイエはそんな子供達の微笑ましい兄弟愛を羨ましく思う反面、少しだけ心配にも思う。
エクセランは七つを越えて無事に一人前の竜人となった。不安定で七つまではいつ女神様の元に召されるか分からない竜人の子供だが、このくらいの歳になれば最低限の身を守る能力も身に付き、よほどのことがない限り不慮の死は避けられる。
よって、子供時代の終了と共にエクセランの皇太子教育が始まったのだが。どうしたことか、下の双子がその授業に入り込むようになった。
実の父親すら警戒していた先ほどのように、双子は何故か兄であるエクセランをやたらに心配して世話を焼く。兄が受けている授業に入り込むのも、七つになったばかりのエクセランが皇太子教育でケガをしないかを心配してのことらしい。
皇太子教育が始まったと言ってもまだほんの最初の部分だし、その辺りだと皇子教育や皇女教育と共通した部分も多いので、授業に入り込んだ双子については安全に十分配慮した上で、予習としてエクセランと共に受けさせることにしている。
それだけなら特に問題はない――のだが。
どうしたことか、弟であるシュタルクの出来が良すぎるのだ。
教育係から話を聞いた限り、明らかにシュタルクの方が理解が早い。まるで予習でもしているかのように先回りをして、理解が追いつかないエクセランの面倒を見ているらしい。
シュタルクの方がエクセランよりも年下であるはずなのに――。
そして、それはラフィネも同じだった。ダンスやマナー、エクセランが苦手なところをさりげなく助言したりする。
どう考えても弟や妹の方が出来が良い。
将来、皇帝の座を巡って兄弟間で後継者争いなどが起こらねば良いが――と、ロイエはそれを心配しているのだ――。
「……しつれいいたします、ちちうえ」
「しつれいいたします、ちちうえ……」
「…………」
挨拶をして去って行く子供達。一瞬。シュタルクがロイエにチラリと妙な視線を走らせ、兄に促されるままに元来た道を戻って行く。
成長がみられるエクセランとは違い、双子は相変わらずロイエが近づくと警戒して身構える。
エクセランの時はすぐにロイエの魔力に慣れて懐いたが、双子は決して怯えたような態度を崩さず、ヴィクトリアやエクセランがいるとき以外はロイエに近寄ろうとしない。
そのせいだろうか。エクセランは敏感にそれを察知すると怯える双子の前に立ち、ロイエの視線を遮り双子を庇う。
かと思えば双子は双子で、先ほどのようにロイエへの警戒を怠らない。特にシュタルクからは敵意めいたものを感じることすらある。
双子は双子で兄を守っているつもりらしい。
……何から守っているのかはまったくもって分からないが。
一人っ子だったロイエはそんな子供達の微笑ましい兄弟愛を羨ましく思う反面、少しだけ心配にも思う。
エクセランは七つを越えて無事に一人前の竜人となった。不安定で七つまではいつ女神様の元に召されるか分からない竜人の子供だが、このくらいの歳になれば最低限の身を守る能力も身に付き、よほどのことがない限り不慮の死は避けられる。
よって、子供時代の終了と共にエクセランの皇太子教育が始まったのだが。どうしたことか、下の双子がその授業に入り込むようになった。
実の父親すら警戒していた先ほどのように、双子は何故か兄であるエクセランをやたらに心配して世話を焼く。兄が受けている授業に入り込むのも、七つになったばかりのエクセランが皇太子教育でケガをしないかを心配してのことらしい。
皇太子教育が始まったと言ってもまだほんの最初の部分だし、その辺りだと皇子教育や皇女教育と共通した部分も多いので、授業に入り込んだ双子については安全に十分配慮した上で、予習としてエクセランと共に受けさせることにしている。
それだけなら特に問題はない――のだが。
どうしたことか、弟であるシュタルクの出来が良すぎるのだ。
教育係から話を聞いた限り、明らかにシュタルクの方が理解が早い。まるで予習でもしているかのように先回りをして、理解が追いつかないエクセランの面倒を見ているらしい。
シュタルクの方がエクセランよりも年下であるはずなのに――。
そして、それはラフィネも同じだった。ダンスやマナー、エクセランが苦手なところをさりげなく助言したりする。
どう考えても弟や妹の方が出来が良い。
将来、皇帝の座を巡って兄弟間で後継者争いなどが起こらねば良いが――と、ロイエはそれを心配しているのだ――。
187
お気に入りに追加
2,759
あなたにおすすめの小説

運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング

忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。


龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。

彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。

あなたの運命になりたかった
夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。
コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。
※一話あたりの文字数がとても少ないです。
※小説家になろう様にも投稿しています

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる