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31 魅了された皇帝は現実を思い知る

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 叫んで。泣いて。暴れて。
 泣きながら暴れて。また叫んで。

 気づいた時にはロイエはベッドへと寝かされていた。


 身を起こし、サイドテーブルに置いてあった水を飲む。叫びすぎて腫れた喉に通る水が冷たく気持ちがいい。

 ロイエが寝かされているのは見知らぬ部屋だった。飲み終わったコップをサイドテーブルに戻し、ぼんやりと周囲を見回していると入ってきたメイドがすぐに出て行った。ほどなくしてバタバタと足音が聞こえてくる。どうやら、ロイエが起きたのに気づいて人を呼びに行ったらしい。


「陛下……!」

「お気づきになられましたか!!」

「…………陛下」


 入ってきたのは側近達だ。そのなかの一人が大きく頬を晴らしている。あの時、ロイエに苦言を呈した側近の一人だ。


「……思い出した。『初めての子』ではなかったのだな」

「も……申し訳ございません!!!!」


 ガバリと頬を晴らした側近がその場で床に頭を擦り付けロイエに謝罪する。頬に殴られた痕はあるが、それを見下ろす他の側近の目には同情の意志が見て取れる。つまり心情的にはそちら側であるということだ。……無理もない。


「……よい。むしろ、あの場で忠告してくれて助かった。あそこで止めてくれねば、私はヴィクトリアを慰めるつもりで更に無神経な発言を重ねる所だった。今、一番に考えるべきはヴィクトリアのことだ」

「陛下……」

「……だから聞かせてくれ。あの時、ヴィクトリアの腹に居た子供はどうなった?」

「無事に……お生まれになりました。しかし、あの火事で、その…………」

「そう…か……」




 番と信じた女に唆されて、ヴィクトリアをこの城から離宮へと追いやったのは他ならぬロイエ自身だ。そして、ヴィクトリアを亡き者にしようとしたあの女が離宮へ火をつけさせた。
 そこに、産まれた子供も居たという事か……。


 ヴィクトリアを――愛する番を助けるために必死に手を伸ばしたロイエ。ひどく曖昧な記憶は子供の存在をロイエの記憶から消し去っており、燃え盛る火の中から助け出せたのはヴィクトリアのみだ。
 覚えていないが、子の存在すら認識していなかったのだから助け出せるはずがない。

 顔も覚えていない初めての子供はそのまま――。




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