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19 命を繋ぐもの(ヴィクトリア視点)
しおりを挟むそれを最後にヴィクトリアは食事の席へ顔を出すのをやめた。
かといって代わりの食事が部屋へ届けられることはなかったが、食堂へ行ったとしても食べられない物を出されるのならばそれは同じことだ。
あれはもはや食事ではないし、不愉快な思いをしなくて済む分、時間を無駄にせずにすむ。
想定よりは早かったが、ヴィクトリアはいずれこのような事態になることも想定して準備を進めていた。シェルターに保護されていた女性たちの中にも、似たような被害を受けたという報告があったから。
『そういった種類』の番に魅入られた男性は番に言われるがままに妻を虐げ、その立場をどこまでも堕とそうとするものだ。
……皇帝の愛を手に入れれば、番が次にとる行動は何か。
保護シェルターの女性たちに寄り添い話を聞き、その運営に深く携わっていたからこそヴィクトリアには分かった。
食事への毒物の混入は時間の問題だった。
だから部屋や人目の付きにくい城のあちこちにそうとは分からぬ形で保存食を用意しておいたのだ。
それで得られる栄養は最低限だし、自分が生きる為と言うよりは大切な命を繋ぐためのものでしかない。当然、そんな食生活では身体が痩せていく。
そのような状態となってもヴィクトリアの執務が減らされることはなかった。当初の宣言通り、ロイエが自分の番には一切の仕事をさせないためだ。
とは言っても、これはヴィクトリアにとっても都合がいいと言えた。部屋に隠している保存食の量には限りがあるので、自分が動けるうちは出来るだけそれには手を付けたくない。
減らない執務はヴィクトリアが堂々と城の中を動き回り、こっそりと必要な栄養を摂る手段でもあったのだ。
部屋から離れた位置に隠されている保存食はいつ、誰が、どうやっているのか分からないが、時折補充がされていた。
――が、大体の予想はつく。
今は既に更迭された優秀な側近達を想い、ヴィクトリアは有難くそれを口にする。
兵糧にも使われる保存食は味覚を感じなくなっているヴィクトリアにすら決して食べやすいとは言えない代物だが、安心して口にできるそれらは少なくとも生きる希望を与えてくれる。自分は一人ではないと、まだ頑張れると思わせてくれる。
ヴィクトリアにとって。誰かの善意によって用意されているそれは、今や敵ばかりとなった城で出されるどんなご馳走よりも、食事らしいと言える食事だった。
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