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12 笑顔の皇后(ヴィクトリア視点)
しおりを挟む「えぇー…皇后サマのお古ぅ……? 番のわたしがぁ?」
「今日だけさ。晩餐用のドレスも無いだろう? とりあえずの間に合わせだ。明日には買い物に行こう。既製品になってしまうが君の好きなドレスを好きなだけ買うといい」
「キャー♡ やったぁ! 流石ロイね」
「愛する番の為ならばこのくらい当然だ」
「あ♡ もー…ロイ、こんなところでぇ……クスクス。政略結婚(笑)の皇后サマが見て……ぁあン♡」
時折、お相手の女性がヴィクトリアの様子を窺いながら。目の前で抱きついてキスをして、イチャイチャと愛を確かめ合うロイエと番。完全に二人の世界だ。
そんな二人を前にして、ヴィクトリアの頭は別のことを考えていた。
皇后は皇帝不在時にその分の執務を行う。
緊急事態に対処する。
失敗をすれば周りから悪く言われる。
プレッシャーに晒され、仕事に追われて何日も眠れぬこともある。
全てロイエが言っていた通りだ。
当然、その他に皇后に割り当てられた仕事も山のようにあるし、ヴィクトリアはロイエを支えるために14か国語をマスターした。
――全部、ロイエへの愛があるからこそ耐えられたことだ。
それを肝心の夫から『余計な苦労』『愛している者にはさせられない』などと言われ、ヴィクトリアは思わず笑ってしまう。
そして、夫はちゃんと皇后が背負う物を理解していたことに驚いた。
そこまで大変な苦労だと分かっていて、今まで支えてきたヴィクトリアに対しそれを言ってしまえるのかと。
二人でこの国を良くしようと誓った幼い時からの約束は何だったのかと。
ヴィクトリアはこの夫の為に頑張ってきた今までの自分が可笑しくて馬鹿らしくて仕方がない。
……そのお陰で。
ヴィクトリアはキレイな作り笑顔を張り付けることにはまったく苦労しなかった。
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