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8 皇帝の不満と喪ったモノ

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「ぁ……」

 部屋に響く甘い声。

 ロイエが正気を取り戻してから。ヴィクトリアは以前よりも情熱的にその身にロイエを受け入れてくれるようになった。

 それが、あの愚かな女への嫉妬心から引き起こされたのだと思うと、妙な満足感がロイエの心を満たしていく。

 ロイエは大好きなヴィクトリアと結婚出来て幸せだったし、二人は心を寄せ合い幾度となく愛を交わしてきたが、皇帝の妻としての品位を保ったままの妻にほんの少しの物足りなさを感じていたのも事実だった。
 今から思えば、そんな心の隙間に付け込まれたのかもしれない。

 非の打ち所がないまでに美しく献身的で清廉な妻とは違い、欲望に忠実に下品とも思えるほど積極的に迫ってきた偽の番。

 当時を振り返ってみてもあの女の何が良かったのかよく分からないし、何をされてそこまでのめり込んだのかもまったく解らないが、相手に興味を持っただけでも、付け入るような隙をロイエ自らが女に与えたようなものだ。
 娼婦のようなあの女があまりにも――妻とは違い過ぎたから。


 それがどうだろう。


 愚かな女の存在は今も許せずロイエの心を怪しくかき乱すが、まるでそれに対抗するようにヴィクトリアはロイエを求めて自ら誘ってくるようになった。以前の貞淑な妻なら、真っ昼間から執務室でこのような行為に及ぶなど考えられないことだ。

 あやふやな記憶に溺れるように、ロイエは誘われるまま妻との行為に没頭していった。




 ロイエは廊下を通りかかったメイドに指示を出し部屋で摂れる簡単な夕食を手配すると、執務室横に設置されている仮眠室へと戻り再び妻との行為にふける。


 日当たりのよい仮眠室での行為は妻の身体を明るく照らし出し、夜とはまた違った魅力がヴィクトリアを彩り、そのことがロイエをますます興奮させた。


 そんな中――。
 引きつれた痛ましい胸元にロイエの手が止まる。


 偽の番が引き起こしたあの火事で。ロイエは多くの物を喪った。暴走するロイエを諫めた忠臣。小さい頃から面倒を見てくれた心から信頼できる使用人。


 そして――キズ一つなく美しい妻の胸元に輝いていた成長途中の見事な竜鱗。


 竜人はその長い寿命の影響で、身体の成長には大きな個人差がある。

 特に番の判別が出来る竜鱗にはその差が大きく現れて、子供が作れる十代で婚姻は出来るが、その時点では竜鱗が形作られてすらいないなんてこともザラだ。身体に竜鱗が現れてから育ちきるまでにかかる時間は五年~二十年。

 愛しい妻の胸元には白く輝く竜鱗が出来つつあり、ロイエはその成長を日々楽しみにしていた。


 妻の竜鱗が育ち切るまであとちょっと。


 育ちきってから番と愛を交わせば成熟したその竜鱗が二人に与えられた運命を教えてくれるはず、だった――。




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