【完結】それは本当に私でしたか? 番がいる幸せな生活に魅了された皇帝は喪われた愛に身を焦がす

堀 和三盆

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3 暗雲

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 数多の文化がある獣人の国をまとめて統治している竜人が治める国――ドラゴディス帝国。強大な力を持つ竜人が治める広い国土に住む帝国民はやはり竜人が多い。
 他の獣人国同様に生まれついての運命の番を世界のどこかに持つ彼らは、運命の番を伴侶に迎えることが最上の幸せとされている。

 けれど竜人の番は同じ竜人とは限らないうえに、彼ら自身が他種族と比べ極端に長い寿命をもつことから生のサイクルに大きな誤差があり、寿命の短い番とはすれ違ってしまう者がほとんど。実際に出会える者はごく少数だ。

 なので、竜人の間では恋愛結婚が一般的ではあるのだが、いざ番に出会ってしまえば相手が結婚していようがいまいが番への愛が暴走し、問題行動を取りがちなのが竜人社会の間では大きな社会問題となっている。

 現在。そんなドラゴディス帝国に暮らす帝国民の顔には笑顔があふれ、その誰もが胸に希望を抱き明るい未来を信じている様子が見て取れる。

 賢妃と名高い皇后ヴィクトリアと共に、賢帝と呼ばれた皇帝ロイエが戻ってきたからだ。この先長く続くと思われた苦しい不遇の時代の終焉に、帝国民はお祭り騒ぎだった。




 ドラゴディス帝国皇帝ロイエは執務を終わらせると、皇后であるヴィクトリアのもとへと急いだ。ロイエが正気を取り戻してからの日課だ。

 ずっと以前にも今と同様、寸暇を惜しんで愛する妻のもとへと通っていたことを考えると、まるで皇后の存在自体を無視するかのような、少し前までの自分の愚行の方がロイエには信じられないくらいだった。


 皇帝の一人息子であった皇太子ロイエと侯爵令嬢のヴィクトリアは幼馴染だった。
 その仲の良さから二人の婚約が決まったが、これはヴィクトリアの生家である侯爵家が貿易業を得意としていて他国とのパイプを多く持ち、かつ帝国内屈指の資産家でもあったことから計画された政略的な結婚でもあった

 皇太子妃候補となったヴィクトリアの生家が資金的にも人脈的にも帝国を支えることで、いずれ皇帝の地位を継ぐロイエの後ろ盾となり帝国内をより安定化させるためだ。

 ロイエとヴィクトリアは幼い頃から交流を続け、お互いに恋情も抱いており、周囲に祝福されながら結婚。数年後皇帝の死去と共に皇太子だったロイエは皇帝の地位を継いだ。

 政略結婚でありながら恋愛結婚でもあるという二人の仲の良さは、皇太子時代から帝国内や獣人国家のみならず人間の国にまで知れ渡っていた。

 即位後は当初の目論見通り政治は安定。そのお陰か代替わりの混乱も特に見られなかった。

 皇后の生家の後押しで他国との貿易が増え経済は潤って。商取引の増加と共にそれまで付き合いのなかった他国との交流も増え、長きを生きる竜人種独特の文化と建築様式は種族を問わず人々の興味をひいて多くの観光客がドラゴディス帝国を訪れた。

 賢帝と呼ばれたロイエの治世はまさに安泰――だった。

 外交で小国に立ち寄った際、自らを『皇帝の番』と名乗る女に出会うまでは。




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