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第二章 初級講習

19 安定供給! 香車ウサギの角 後編

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「こ・れ・は……!! 美味い!!! しっかりと肉の味がするのに口の中でほどけるやわらかさ!! 溶岩ソースはピリ辛トマトだな。煮込んでドロドロになった濃厚トマトソースが肉に絡んで止まらない……っ!」

 なんだこれ、すげえ。うますぎる。大量にパンを追加注文したかったが、インストラクターの目が怖かったので一番大きなパンはどれかを聞いて一つだけ追加注文して食べたらこれがまた、もう……!!

 ちなみにインストラクターの目は怖いものから呆れの目に変わっていたがそれは気にしない。それくらいに美味かった。

 それと、しっかり一口分を周りの目を盗んでポケットの中の200gにあげるのも忘れない。とはいえ、シチューをポケットに入れるわけにもいかないのでウサギの肉をパンで包んでポケットに放り込むことにする。


 ぽよぽよぽょん


 いただきまぁす。かすかな音だが俺には分かる。意識高い系スライムは食事の挨拶すら忘れない。

 あまりの美味しさに食後の皿はまるでスライムを投入したかのようにピッカピカ。あ、犯人俺です。パンでキレイに拭いましたからね。そして最後はお口に投入。ああ美味い。


「はあ……ウサギって食ったことなかったけど、うまいんですね」

「まあ『香車ウサギ』は魔物ですから、見た目がウサギなだけで普通のウサギとは種類が違いますけどね。こちらではメジャーな食材でもあります。フリー討伐になればご自分でさばいて食べられる会員様もいらっしゃいますよ。ただ、香車ウサギに限らずこちらの魔物は基本、雑食なので捕まったらこちらが食べられます。お気を付けください」


 物騒な注意は聞こえたがそれよりも。
 メジャーな『食材』。


 食材……食材……食材…………。


 インストラクターの言葉に。
 目の前の、キレイに空になった皿に。


『香車ウサギは美味しい食材……!!』


 俺の脳内情報は完全に更新され、ふわっふわのウルウルを見ても心が乱されなくなった。


 そして、この次の討伐で俺は香車ウサギに止めを刺した。


 香車ウサギの討伐はコツを掴むと思ったよりも簡単だった。変に逃げようとせずに、突進気配を感じた方向へと剣を向ける。
 そうすれば、基本正面にしか進めない超高速移動の香車ウサギは剣を避けられずに勝手に自分から串刺しになる。
 このあたりも現地で串刺しラビットと呼ばれる所以だそうだ。

 そして討伐するまで知らなかったのだが、このウサギは『リザレクション』が使えるらしい。それには大量の魔力が必要らしく、その際使われるのがこの角だった。

 香車ウサギは魔力を集めるのが得意だが体内にとどめておくことは出来ずに額の弱い部分から漏れ出てしまう。それが、つららのように固まったのが角なのだそうだ。

 それを聞いて、角を奪って無防備になってしまった3kgの安否が心配になったが、ごくまれに角をぶつけて自然に落としてしまう個体はいるらしい。その際は数週間もすれば新たな魔力の角が育つらしいので、3kgにはぜひとも新たな角が育つまで人間には捕まらずにうまく逃げ切って欲しいものだ。


 殺すしか角を奪う方法がないが、殺せばリザレクションを自動発動させるため角が無くなる。

 なるほど、香車ウサギの角がレアアイテムとか呼ばれるわけだ。


 ちなみに。俺が大量に角だけ採取してしまったせいで、子供が角を失った串刺しラビットを普通のウサギと間違えて飼ってしまう案件が発生して現地では大騒ぎとなってしまった。

 だが、角を失った串刺しラビットは割と人に懐きやすいらしく、新たな角が生えてきても飼い主を襲うことはなかった。

 これ幸いとペットとして飼うのが流行し、新たに生えてきた角を折って売る小遣い稼ぎが庶民の間で当たり前になるのは少し後のこと。

 香車ウサギの角は安定供給されるようになって研究も進み、魔力をとどめておける技術も開発され、電池のように便利に使われるようになる。



 そしていつの間にか角より肉の方が希少となってしまい俺が涙することになるのだが、この頃の俺はまだ知らない。





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