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第一章 体験入会
2 体験入会! スライムの討伐
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「ご予約はいつになさいますか? 本日キャンセルがありましたので、この時間からでよろしければすぐにご案内できますが」
おお、ついている。こういうものはやる気のある時にやるのが一番だ。丁度部屋着代わりのジャージを着てきているし、動きやすさも問題ない。
「お願いします!」
そういう訳で、俺は魔王討伐コースを試してみることにした。
まず、体験入会用のカードキーを渡された。そして魔法陣のある部屋に行くと、インストラクターに言われるままに指定の場所にそのカードをかざす。
魔法陣が光ったと思ったら、次の瞬間には異世界だった。
「入会後にはきちんと計測して身長・体重・スキル等、個人情報の入った会員証を兼ねた専用キーをお渡しします。今回は体験入会用のレンタルキーで何も入力されていませんが、使用方法は一緒です。今のように魔法陣にかざすと、異世界に飛びます。今回は体験ですので30分ですね。初級は、まずはスライムの討伐です。制限時間内に倒してください。武器はこちらです」
そう言って、インストラクターから軽めの長い剣を渡された。
「あ、ほらスライムがいましたよ!」
少し離れたところに、元気に跳ねる大きな物体がある。ソレが跳ねるたびに『ぽよぉん、ぽよぉん』と、気の抜けた音がする。
(よぉし。逃がしてなるものか!)
物体の方へ渡された剣を持って走ると、途端に息切れがした。剣は軽い。軽いが、重さがないわけじゃない。
「ぜーぜー、はーはー」
スライムの元へたどり着いた時には息切れしていた。こんなに体力落ちていたのか。っていうか、こんなに太っていたのか。体が重くて、移動するだけでも一苦労だ。
ぽよぉん? ぽよぉん?
やや縦長に形を変えて、首をかしげるようにスライムはこちらを見てくる。近寄ってみたら俺の胸くらいまでの大きさがあり、予想以上に大きくてビビったが、特に攻撃してくる様子はない。
ただ、人を嘲るような動きをするたびに『ぽよぉん? ぽよぉん?』と間抜けな音がして、その度、「大丈夫か? 戦えるのか?」と聞かれているようでイラっとする。
「いくぞっ!」
十分に息を整えてから――
剣を構えて斬りかかるっ!
しかし、スライムには当たらない。動きは遅いくせに、右に左に器用に避ける。フェイントをかけて剣で刺そうとしても、そこだけパックリ穴をあけて最低限の動きで避ける。
それだけの事で、運動不足の俺は汗だくだ。
ぽよぉん。ぽよよーぉん。
小馬鹿にしたような動きをして、スライムは俺をおちょくってくる。にょきっと突起が生えて、「ヘイヘイ、カモン!」というように、ジェスチャーをしてくるのが腹立たしい。
狙っているのに剣はなかなか当たらない。
それでもインストラクターの助言に従っているうちに少しずつ剣の振り方に慣れてきて、ちゃんとスライムに当たるようになった。その度に、スライムが小さくなっていく。
貸与された剣は、小さくその体をそぎ取ってはいくけど、致命傷までは与えられない。
「闇雲に斬っても駄目ですよ。スライムの中に、小さな核のようなものが見えるでしょう。そこを狙って斬り込んでください。どんな魔物にもある弱点なのですが、スライムは半透明なので特に見つけやすいんです。さあ、頑張って!」
なるほど。言われた通り核を探すが――俺の胸くらいまであったスライムはいつの間にか手乗りサイズの細切れになっている。いくら半透明とは言っても、分量は変わらないので数が多すぎてとても見づらい。
しかも、切り落としたばかりのスライムのかけらは切れたトカゲのしっぽのようにぴょこぴょこ動いて落ち着いて探せない。
仕方ないので手動でのひき肉作りのように剣を使って滅多切りにし――
「はいっ、お時間です」
その言葉と共に、俺はスポーツクラブに戻っていた。
魔法陣のある部屋だ。どっと疲れが出て、俺はその場に座りこんだ。
「すごいですよ! 新記録です」
「えっ。あっ! もしかして倒せてたとか!?」
核を探すのを諦めて、最後の最後での滅多切り。あれは頑張った。
「いえ、一匹も倒せなかったのはお客様が初めてです。82歳の体験入会のお客様ですら30分の間に2匹ほど倒されていましたので!」
そんな事を言われ、ガックリと落ち込んだ。しばらく立ち上がれそうにない。
「大丈夫! これからですよ。いい運動になったでしょう。スライムは意外と機敏性が高いので、準備運動にピッタリです。続けていけば体が軽くなって、無理なく倒せるようになりますよ」
そう言ってインストラクターが手を貸してくれたので、ふらつく足をおさえながら立ち上がった。
確かに――倒せはしなかったが、全身汗びっしょりだ。
これは確かに痩せるかもしれない。
ゲームの中に入り込んだような非日常感。
コントローラーを握っていた時には感じなかったリアルな疲労感。
これなら続けられる。そう思った俺は、『魔王討伐コース』に入会することにした。月会費がもったいないから正式に入会手続きをするのは月が替わってからにしてもらったが、今から次の運動が楽しみだ。
スポーツクラブに併設されている大浴場でサッパリと汗を流し――
再び服を着たところで気が付いた。
(あ、これ着替え持ってこなきゃダメなやつだ)
運動した後の服はべちょべちょだった。今回は申し込みだけのつもりだったから着替えは持ってきていない。
とりあえずタオルはレンタルで借りられたけど、次からは運動用に服を用意した方がいいだろう。
おお、ついている。こういうものはやる気のある時にやるのが一番だ。丁度部屋着代わりのジャージを着てきているし、動きやすさも問題ない。
「お願いします!」
そういう訳で、俺は魔王討伐コースを試してみることにした。
まず、体験入会用のカードキーを渡された。そして魔法陣のある部屋に行くと、インストラクターに言われるままに指定の場所にそのカードをかざす。
魔法陣が光ったと思ったら、次の瞬間には異世界だった。
「入会後にはきちんと計測して身長・体重・スキル等、個人情報の入った会員証を兼ねた専用キーをお渡しします。今回は体験入会用のレンタルキーで何も入力されていませんが、使用方法は一緒です。今のように魔法陣にかざすと、異世界に飛びます。今回は体験ですので30分ですね。初級は、まずはスライムの討伐です。制限時間内に倒してください。武器はこちらです」
そう言って、インストラクターから軽めの長い剣を渡された。
「あ、ほらスライムがいましたよ!」
少し離れたところに、元気に跳ねる大きな物体がある。ソレが跳ねるたびに『ぽよぉん、ぽよぉん』と、気の抜けた音がする。
(よぉし。逃がしてなるものか!)
物体の方へ渡された剣を持って走ると、途端に息切れがした。剣は軽い。軽いが、重さがないわけじゃない。
「ぜーぜー、はーはー」
スライムの元へたどり着いた時には息切れしていた。こんなに体力落ちていたのか。っていうか、こんなに太っていたのか。体が重くて、移動するだけでも一苦労だ。
ぽよぉん? ぽよぉん?
やや縦長に形を変えて、首をかしげるようにスライムはこちらを見てくる。近寄ってみたら俺の胸くらいまでの大きさがあり、予想以上に大きくてビビったが、特に攻撃してくる様子はない。
ただ、人を嘲るような動きをするたびに『ぽよぉん? ぽよぉん?』と間抜けな音がして、その度、「大丈夫か? 戦えるのか?」と聞かれているようでイラっとする。
「いくぞっ!」
十分に息を整えてから――
剣を構えて斬りかかるっ!
しかし、スライムには当たらない。動きは遅いくせに、右に左に器用に避ける。フェイントをかけて剣で刺そうとしても、そこだけパックリ穴をあけて最低限の動きで避ける。
それだけの事で、運動不足の俺は汗だくだ。
ぽよぉん。ぽよよーぉん。
小馬鹿にしたような動きをして、スライムは俺をおちょくってくる。にょきっと突起が生えて、「ヘイヘイ、カモン!」というように、ジェスチャーをしてくるのが腹立たしい。
狙っているのに剣はなかなか当たらない。
それでもインストラクターの助言に従っているうちに少しずつ剣の振り方に慣れてきて、ちゃんとスライムに当たるようになった。その度に、スライムが小さくなっていく。
貸与された剣は、小さくその体をそぎ取ってはいくけど、致命傷までは与えられない。
「闇雲に斬っても駄目ですよ。スライムの中に、小さな核のようなものが見えるでしょう。そこを狙って斬り込んでください。どんな魔物にもある弱点なのですが、スライムは半透明なので特に見つけやすいんです。さあ、頑張って!」
なるほど。言われた通り核を探すが――俺の胸くらいまであったスライムはいつの間にか手乗りサイズの細切れになっている。いくら半透明とは言っても、分量は変わらないので数が多すぎてとても見づらい。
しかも、切り落としたばかりのスライムのかけらは切れたトカゲのしっぽのようにぴょこぴょこ動いて落ち着いて探せない。
仕方ないので手動でのひき肉作りのように剣を使って滅多切りにし――
「はいっ、お時間です」
その言葉と共に、俺はスポーツクラブに戻っていた。
魔法陣のある部屋だ。どっと疲れが出て、俺はその場に座りこんだ。
「すごいですよ! 新記録です」
「えっ。あっ! もしかして倒せてたとか!?」
核を探すのを諦めて、最後の最後での滅多切り。あれは頑張った。
「いえ、一匹も倒せなかったのはお客様が初めてです。82歳の体験入会のお客様ですら30分の間に2匹ほど倒されていましたので!」
そんな事を言われ、ガックリと落ち込んだ。しばらく立ち上がれそうにない。
「大丈夫! これからですよ。いい運動になったでしょう。スライムは意外と機敏性が高いので、準備運動にピッタリです。続けていけば体が軽くなって、無理なく倒せるようになりますよ」
そう言ってインストラクターが手を貸してくれたので、ふらつく足をおさえながら立ち上がった。
確かに――倒せはしなかったが、全身汗びっしょりだ。
これは確かに痩せるかもしれない。
ゲームの中に入り込んだような非日常感。
コントローラーを握っていた時には感じなかったリアルな疲労感。
これなら続けられる。そう思った俺は、『魔王討伐コース』に入会することにした。月会費がもったいないから正式に入会手続きをするのは月が替わってからにしてもらったが、今から次の運動が楽しみだ。
スポーツクラブに併設されている大浴場でサッパリと汗を流し――
再び服を着たところで気が付いた。
(あ、これ着替え持ってこなきゃダメなやつだ)
運動した後の服はべちょべちょだった。今回は申し込みだけのつもりだったから着替えは持ってきていない。
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