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36 結ばれた二人
しおりを挟む「――コホン、そろそろ私達も娘と話してもいいかな?」
「わあ、リベルタお義姉様、とってもキレイです!!」
軽い咳払いに振り向けば、入り口にリベルタの父と義弟が居た。居心地悪そうに立ってはいるが、二人とも表情はどこか柔らかい。
「あ、す、すいません、つい……」
オネストは慌ててリベルタから身を離す。リベルタは家族に抱擁を見られたことに赤くなりながらも、デビュタントでヴァールに言われた爵位の件を二人に報告する。
父親と義弟も話を聞いてホッとしているようだ。
すると、リベルタから身を離したオネストが遠慮がちに言ってきた。
「リベルタ、馬車の用意が出来たんだ。そろそろいいかな? 国民はきっと、首を長くして女神様の登場を待っているよ。あ、でも、もう少し家族と話していたいなら僕が先に行って時間を稼いでも……」
「ううん、貴方と一緒に行くわ!」
……先に逝かれても困るし、と心の中で付け足してリベルタはオネストの肘に手を添える。
「お父様、お母様、私をここまで育てて下さりありがとうございました。そして――背中を押してくれてありがとう。おかげで広い世界を知ることが出来て、自分が想像もしていなかった幸せと出会うことが出来ました。しかも、こんなに可愛い義弟まで出来て――。フランク、アシュランス伯爵家を……二人を頼むわね」
「はい、お任せくださいお義姉様! 来年には僕の子供も産まれます!! お腹が大きいので連れて来られませんでしたが、今度は妻も紹介しますね」
リベルタの義弟は昨年のデビュタント後に同い年の幼馴染と早々に結婚し、既に子供もいるようだ。番ではないのに行動が早い、と思ったら。
「彼女の番に先を越されたら困るのでノンビリしてはいられませんから!!」
「あ、ソレ、分かる、分かる!」
妙なところで義弟とオネストは意気投合していた。思いのほか、二人は気が合いそうだ。
「じゃ、行こうか僕の奥さん」
「――ええ、旦那様」
この日。
――まるで、建国神話を準えるように。
前王の愛妾に好き放題にされて荒れ放題だったこの国をあっという間に立て直した――一度は追放された苦労人庶民派王子と、そんな彼を不思議な力で支え続けた、真実の目を持つ美しき女神――
そんな二人の晴れ姿を一目見ようと、王都には多くの国民が集まった。
結婚式は二人の希望で非公開とされ――
式は親族のみで質素に必要最低限で執り行うこと。
国民向けにはパレードを実施すること。
……が、事前に周知されていた。
贅沢を好まない堅実な二人の姿勢は国民から支持をされたし、それでいて国民に対する配慮も忘れない様子は好意的に受け入れられた。
馬車に乗り多くの祝福を受けながら国民に手を振るリベルタだが――――油断はしない。
表面上は安定しているが、この国はまだ平和とは程遠い。
リベルタはこっそり魔法を発動させつつ秘密裏にオネストの暗殺を防ぎ――パレードが終わるころにはクタクタになっていた。
オネストはそれに気付くことなく、ただ嬉しそうに手を振り国民を慈しんでいたが――――それでいい。
リベルタはそんな彼が治める国こそが見たいのだから。
結婚式に。
デビュタントに。
国民向けのパレード。
昼と夜ほども違う距離の大移動を行いながら、その全てを一日でこなした美しき花嫁。
種族的に丈夫な竜人ではあるが、流石に疲れ果てて――。
すっかり体力が逆転したリベルタがオネストに降参するのは、初夜となるその日の夜のこと。逆にオネストは元気いっぱいだった。
この機に乗じて動き出そうとする裏切り者たちのせいで、この体力の逆転現象はしばらく続くことになるが、二人ともそれはそれで幸せそうだった。
二人の子供が出来る頃――膿を出し切った国は揺るがないほどに安定し、暗殺の心配もなくなった。
それでもリベルタはオネストから決して目を離すことなく、必ず隣に寄り添った。
その結果、オネストは平均的な寿命よりちょっぴり長く生きて――出会った頃とまるで変わらぬリベルタに見守られながら旅立った。
そして……
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