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35 誰よりもキレイに
しおりを挟む――トントン
「あ、お父様達かしら」
リベルタが父と義弟のことを考えているとちょうどノックの音がした。急いで立ち上がりドアへと向かう。
「リベルタ、準備はできた? 開けていいかな?」
「あっ、オッ、オネストなの!? その、ちょっと待って!」
ドアを開けかけたところで予想していなかった人物の声が聞こえて……リベルタは慌てて何度も見たはずの鏡を見返した。そんな姿をリベルタの母親は微笑ましそうに見守っている。
(だって……。オネストに初めてこのドレスを着ている姿を見せるのだもの……)
これは、オネストとリベルタが相談をしながらデザインを決めたドレスだ。
魔法陣のおかげで新獣人国への移動時間が短縮できた分、ドレスのデザインは心行くまで調整できたが、完成品を身に付けた姿はまだオネストに見せていないのだ。
せっかくだから少しでも美しいと思ってもらいたい、とリベルタは最終チェックに余念がない。
――リベルタはその為に今日まで磨き上げてきたのだから。
注意深く鏡を見て満足するとリベルタはドアを開けた。
「ああ……! リベルタ、なんて美しいんだ! あまりの美しさに僕の心臓が止まってしまいそうだ……!!」
「……っ!? ちょっ、やめてよね!? ええと、回復魔法、魔力の残量は……」
大袈裟に胸を抑えるオネストに、サッと顔色を変えるリベルタ。実は、誰にも言っていないけれども、今日、新獣人国から戻ってから既に一件、リベルタは魔法でオネストの暗殺を防いでいる。
「やだなぁ。どれだけ僕が弱いと思っているんだよ。それくらい君が魅力的ってこと。大丈夫、こんなにキレイな奥さんを残して死ねないよ。僕の愛する女神を誰かにとられたら困るからね」
そう言って笑うオネストに強く抱きしめられて、リベルタはホッと安堵の息を吐く。元気に動く彼の心臓の音が心地よい。
誉め言葉一つとっても心臓に悪い。けれど――やはり、愛する人から褒めてもらうのが一番嬉しく感じる。
思えば。
リベルタは今日、いろんな人に褒められた。
着替えを手伝ってくれた実家の使用人に。
何年もデビュタントに参加していた為にできた王宮での知り合いに。見ず知らずの参加者に。
そして――番に。
今までのデビュタントでは一度もそんな事なかったのに。
――――でも。
今から思うとそれも当たり前のことのように思われる。控室にある大きな鏡にはオネストに抱きしめられて輝くような笑顔を浮かべている自分。
今日、この日の為に。この人の為にリベルタは自分を磨き上げてきたのだ。
愛する人と結婚式を挙げ、幸せの絶頂に居るリベルタは他の誰よりも美しく、幸せに見えたに違いない。
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