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29 謎の収蔵品
しおりを挟むデビュタントは結婚式予定日の前日だ。
竜人が持つ嘘感知スキルを含む番問題はオネストの案でどうにか誤魔化せるとしても、当日、リベルタはデビュタントへ出席するために母国へと帰らなくてはならない。
数カ月単位で往復の移動時間がかかることについてはどうにもならないだろう。
まあ、それについては神殿側も協力をしてくれるらしいし、書類上だけ先に婚姻をしておいて、後日、リベルタが成人の儀を終えて帰国してからゆっくり結婚式を挙げる――という形をとるのだろう。
……と、ばかり思っていたのだが。
「いいや? 結婚式も延期しないよ。それだと、神殿関係者に嘘をつかせることになるじゃないか。神に仕える彼らに対し、そんな酷いことをしろとは言えないよ」
「……えっ!?」
「彼らには真相を黙っていてもらうだけだ。その為の協力はしてもらうけど、彼らに嘘をつかせることはしない。――で、僕たちの結婚式はちゃんと予定している日付に挙げる。まあ、時差を利用するために式を挙げる時間は朝イチに変えるし、結婚式が終わり次第、君のデビュタントの為にすぐ新獣人国に移動しないといけないから……全体的な一日のスケジュールは大幅に組み直さなくてはいけないけどね」
「ええー…と。それはつまり、どういう……?」
リベルタは訳が分からなかった。移動だけでも片道3カ月はかかるというのに、結婚式を挙げて、なお且つデビュタントに間に合うように、すぐにリベルタの母国へと帰る……?
たしか、神殿は朝8時からだから、朝一番で式を挙げるのは分かる。『時差』とやらで、その時間リベルタの母国が前日の夜8時なのも理解した。しかし、移動手段が分からない。
時差を利用した日付トリックのタイムリミットは4時間。結婚式にも時間はかかるし、デビュタントの終了時間もあるから、実際には2時間というところか。
たった2時間ではこの国から出ることすら難しい。それをどうやって新獣人国まで移動するというのだろうか。
――リベルタが疑問に思って戸惑いの視線を向けると、オネストはニッコリと微笑んだ。
そして、自信満々に言う。
「『魔法』を使うんだ」
「な……っ、無理よ! 魔法と言ったって、何でもかんでもできるわけじゃないわ」
確かにそんなの魔法でも使わない限り不可能だ。
ただし、豊富な魔力を持つリベルタですら瞬間移動魔法なんてものは聞いたことがない。
ただでさえ魔力を持つ者の数はどんどん減っているし、人間の間では新獣人国以上にその減少のスピードは速い。その分、人間の住む国では魔法の技術も廃れているのだ。
とてもじゃないが、人間ばかりのこの国にそんな最新技術があるとも思えない。
「確かに詠唱魔法ではそうだよね。でも、コレを使えばどうだろう」
そう言って。オネストが指さしたのは宝物庫の地面……ではなく、床に敷かれたカーペット。
カーペットいっぱいに描かれた大きい規則的な図形の中に、複雑な文字のような模様が織り込まれた――魔法陣のようだ。
訝し気にリベルタがそれを見ると、驚くべきことに見覚えのある文字があった。
「『移動用……魔法…陣、獣・……人・国……』 えっ!? 何、どういうこと?」
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