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26 番との対話(リベルタside)
しおりを挟む「…………正直に話そう。リベルタ嬢が16歳で初めてデビュタントに参加したときから……毎年……国を出る直前のデビュタントのときまで。私は何か、リベルタ嬢に対して特別な物を感じていたのだ。それは今、当時のそなたの姿を思い出してみても変わらない。
しかし、その言葉にしづらい『何か』が今のリベルタ嬢からは感じられなくなった。その理由が知りたいのだ。分かるなら教えてくれ。この国を出てから何か変わったことはないか? どこかで何かを失くしたりはしてないか?」
ようやくヴァールから発せられた言葉を聞いて。
ああ、何だ。そんな事か――とリベルタは呆れてしまった。
そんなの答えは一つしかない。
いつまでたっても終わらないデビュタント。
リベルタだけが成人できず、歳だけを重ねていく中で――番から認識されない焦りと、結婚適齢期を気にする令嬢としての焦り。
周囲が結婚をしていく中で番のことを考えないようにすればするほど、そちらの焦りはより強くなった。
「何でもいい。以前のリベルタ嬢と今のリベルタ嬢で、いったい何が違うのか。分かるのなら教えてくれないか……」
リベルタが表情に出さないようにしているせいか。ヴァールは更に言葉を重ねてリベルタを問い詰め……いや、追い詰めてくる。
当時を思い出して苦い思いが広がるが――かつて愛した番に至近距離で縋るような目を向けられて。
リベルタはやっと確信することが出来た。
(ああ、もう大丈夫だ。あの頃の思いがぶり返すことはない)
そうしたら少しだけリベルタの気持ちも軽くなって、ヴァールに質問の答えを教えてあげてもいいかと思えた。
それを口にするのは少しだけ悔しいけれど。だからこそ、リベルタが今の幸せを手に入れることが出来たのも事実な訳で。
あまりのデリカシーの無さに少し表情には出てしまったけれど、まあ、これほど鈍感ならば気にせずとも大丈夫だろう――とリベルタは重い口を開く。
どの道、リベルタが言わなければ話が進まない。それではいつまでたってもリベルタが帰りたい場所に帰れない。
なにせ目の前に居るこの人は、10年もの間、自らの番を目の前にしても気付かぬほどに鈍感なのだから。
「……それは『若さ』だと思います。先祖返りの竜人として産まれたこと以外に、特に何も持たないごく普通の私が、16歳から成人できずにいた20年以上の歳月で――失ったものといえばそれくらいですから」
――それでも。
失った物は大きいが得た物だって大きかった。
番に相手にされなかったからこそ、リベルタはこの国から逃げ出し外の世界の広さを知ることが出来たのだ。
遥か遠い、国交もない国の――番とはまるで違うあんなにも弱く、頼りなくて放っておけない存在に出会えたことの、そんな存在をリベルタが愛したことの奇跡を思えば――その程度のことは何てことはない。
それよりも一刻も早く愛しい人の元へと帰りたい。
リベルタの愛する人は信じられないくらいに儚く脆いのだ。リベルタが居なくてはうっかり命を散らしてしまうかもしれない。出会ってから今までで、そのぐらいには彼の弱さに対しては絶対の信頼があった。
だから、少しも目が離せない。離したくない。
人間という生き物は信じられないくらいに儚いから――。
思えば。リベルタがこうして自らの番と長く話をする機会など初めてかもしれない。だからこそ、番だと言うのに相手の価値観も何もかもが分からない。
番が何を考えているのか。実は何も考えていないのではないか。実際こうして話してみても、そんな風に思えてまるで理解が出来た気がしない。
当時、こんな機会があればリベルタは大喜びでアレコレ番と話そうとしたに違いない。そして、相手を理解しようともしただろう。そうしたら何かが変わっていたのだろうか。
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