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23 ヴァールの後悔(竜王視点)
しおりを挟むヴァールから縋るような目を向けられて。
リベルタは一瞬その身を固くしたが、やがて体の力を抜いて――困ったような――僅かに情けないような顔をして。
静かにヴァールの問いに答えた。
「……それは『若さ』だと思います。先祖返りの竜人として産まれたこと以外に、特に何も持たないごく普通の私が、16歳から成人できずにいた20年以上の歳月で――失ったものといえばそれくらいですから」
同じ竜人として。
同種族の異性が持つ若さゆえの輝きに惹かれたのだろう。
歳を重ねた今の自分にソレが無いのは当たり前……。
困ったような笑顔でそんなことを語るリベルタに、ヴァールは思わず声を荒げた。
「ちがうっ! 私は母のこともあって、若さなどに惑わされたりは……」
……言いかけて。
今更そんなことを話してどうなるのだ――と冷静になる自分がいた。
父である国王から見初められたものの、若さを失ったことで捨て置かれたヴァールの母。
――人間である母親が毎年のように歳を重ねるのは当然のことなのに。
そのこともあり、ヴァールは父親のようにはなりたくないと思っていた。一人、年老いた母親を見送ったときにその思いを強くした。
生涯を父と――ヴァールに捧げた母。
父親のような。
若さにのみ価値を見出すような者だと思われたくない。
……けれど、目の前に居るリベルタはヴァールのそんな事情など知らないのだ。嫌われたくないからと、今になってそれを話そうとするのはヴァールの都合に過ぎない。ましてや怒鳴るなど筋違いもいいところだ。
今までに話す機会などいくらでもあった。
判別がつかず毎年のように参加させていたデビュタントで。判別の為の挨拶の後で。
リベルタと話す機会を設ければ良かっただけなのに。
もっと話せば。
お互いの事情や背景を理解すれば。
もっと早く判別がついて、リベルタを解放してやれたかもしれないのに。
若く美しい人間に惹かれて、彼女達との会話を優先して、その努力をしなかったのは自分自身――。
そう心からの反省をして。
ヴァールは更なる激しい自己嫌悪に襲われた。
(ああ、なんだ――結局は私も『若さ』に惹かれていたのか)
竜人と違い短い寿命を生きる人間。
少しの時間も無駄にしないように。学び、着飾り、連れ添う相手を探す、若く美しい令嬢達。
その姿に目を奪われた。
あっという間に逝ってしまった母のように。それが一瞬で失われる儚いものだと知っていたから――。
今更。ヴァールの事情を話しても何も変わらない。
目の前のリベルタは番ではないのだから。
そしてヴァールが囲い込んでいたせいで、令嬢として貴重な若さを失わせてしまったのも事実なのだ。
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