【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る

堀 和三盆

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19 僕に任せて

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 番と出会った竜人は本来の力を取り戻す――しかし、新獣人国の初代国王と初代王妃の間に子はいないから、番の恩恵を受けているのは当事者である二人だけだ。

 初代国王の跡を継いだのは番との再婚当時は既に亡くなっている、彼の先妻が産んだヴァールの父だった。

 だから当然、奇跡のような力はその後の世代には引き継がれていない。ヴァールの父である先代国王は300年の在位の後にヴァールに王位を譲って、それから数十年後に亡くなっている。もちろん、ヴァールの父の元へ人間国から嫁いできたというヴァールの母もそれより百年以上前に亡くなっている。

 その一方で初代国王であるヴァールの祖父は1000歳を超えた今でも元気で、時々、孫であるヴァールの補佐を行っているらしい。
 番である人間の初代王妃も元気で夫婦仲も良い。

 番と出会うか出会わないかで、これほどまでに違うのだ。

 しかも、竜人の場合は知能や魔力も桁違いに跳ね上がるらしい。獣人・鳥人の場合も竜人ほど顕著ではないが、番を得ることでそれぞれの種族が持つ能力や、身体能力が向上したりするそうだ。
 その上で夫婦としての幸せまでもが約束されるのだから、番を持つ種族でそれに憧れぬ者はいない。

 だからこそ、リベルタも国に居る頃は番と結ばれることを夢見てきた。……傷ついた心と共に凍り付いて、砕けてしまった夢ではあるけれど。


 それでも、オネストと歩む未来がそれより不幸せだとは思わない。選べるものならオネストを選びたい。それが、リベルタの偽らざる本心だ。

 ただ、国に戻った後にそれがどうなるのかは分からない。



 竜人として番を愛する本能に縛られ心からヴァールを求めてしまうのか。

 オネストを愛する今の気持ちを持ったままで、番を求めるヴァールに心以外を囚われてしまうのか。



 相手が竜人で、しかも国王という絶対的な立場に在る以上、リベルタが求める結果を得ることは難しいかもしれない。

 オネストもヴァールも同じ国王ではあるけれど――全面的な敵対関係になってしまったら失うものが多すぎる。人間と竜人では戦闘能力も統治能力も何もかもが勝負にならない。

 唯一真っすぐさだけはオネストが飛びぬけているし、そこがリベルタのほれ込んだところではあるけれども――為政者としてソレは足を引っ張る要因としかならないだろう。


 考えれば考えるほどリベルタとオネストが上手くいく方法などないように思われる。


 だとすれば、リベルタが取るべき行動は一つしかない。


「大丈夫。たとえ私が帰って来られなくなったとしても、貴方一人でこの国を回して行けるようにどうにか調整してみるわ」


 母国から知らせが届くまでに3カ月かかった。それを考えると、参加命令があった次のデビュタントの3カ月前にはこの国を出発しなくてはならないから、残りは6カ月――それで、やれるところまでやるしかない。

 オネストは裏工作が苦手だけれど、リベルタの見立てでは他にそれを担えそうな人材も居ないではない。ただ、権力に目がくらんで良からぬことを企みそうではあるが――そこは相互監視でどうにかするしかないだろう。時間がないのだから、贅沢は言っていられない。


 ……こうなった以上は気持ちを切り替えてすぐにでも行動を起こさなくては。


 リベルタにとっての優先順位は常にオネストの命だ。初めに助けられた時に助けて以来、ソレがどんなに失われやすい物かを知っているから、その他の物にかまけている余裕などない。

 結婚式も二人の未来も切り捨てて。ソレだけに全ての力を注ごうと政略を立て始めたリベルタを見て、オネストが慌てて止めに入る。


「ちょ……っ、待って、待って、リベルタ! 行動力があるのは君のいいところだけど、諦めるのが早すぎるよ!!」

「でも……」

「いいか、僕は結婚式も、君との未来も諦めるつもりはない。君のご両親に娘の花嫁姿を見せてあげたいし、番だろうが何だろうが、誰に遠慮することなく堂々と里帰りも出来るようにしてあげたい。二人にとって大事な物は何一つ手放したくない。君にはなんの憂いもなく、安心して僕の元に嫁いできて欲しいんだ」


 オネストは自分の理想を曲げない。その分、正直だし強欲だし、どこまでも真っすぐだ。リベルタだって出来ることならそうしたい。


「それは……私だって、そうしたいけど」

「……大丈夫。僕に少し考えがあるんだ」

「え?」

「まだ、ハッキリとは言えないけど……僕の予想が当たっていればどうにかなると思う。本当は王位なんてどうでもよかったけど、そのために僕は権力を取り戻したんだ。だから、ここは僕を信じて任せて欲しい」




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