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11 ヴァールの事情2(竜王視点)
しおりを挟むリベルタの最初のデビュタントはヴァールもよく覚えている。初々しい――まだ、子供のようなたどたどしさでどこか目が離せなかった。
獣人は種族ごとに成長に差がある。
そんな中、リベルタは数少ない竜人種だ。王族は人間の血を多く取り入れたせいで本来持っている筈の力は出せなくなってしまったが、それでも王族である竜人の寿命は500年とも言われている。実際、ヴァールの父親は560歳まで生きた。
先祖返りの彼女の寿命を測ることはできないが、少なくとも人間よりは遥かに長い事だろう。
そんなリベルタが16歳で迎えたデビュタント。遥か年上のヴァールからすると、まだまだ守るべき子供に見えてしまったのは仕方のない事だったと思う。
彼女は翌年の判別へとまわされた。
それからというもの、ヴァールはどこか義務的だったデビュタントが楽しくなった。
居るか分からない、どう判別したらいいのかも分からない、緊張感だけが強いられる番の判別作業。苦行ではあるが、判別の最後には彼女に会える。
会う度に彼女――リベルタは少しずつ大人になっていく。
それでもまだどこかに幼さを、自分が守ってやらねばという感覚が抜けきらず、いつまでたってもリベルタだけは判別することが出来なかった。結果、十年近く成人も先延ばしにすることになる。
何度も成人の儀を迎えたリベルタには既に最初のような初々しさはない。それでも見知った気やすさというか、彼女に対してのみ他とは違うものを感じていたのは確かだ。
少なくとも、周囲から浮いて明らかに場慣れしていくリベルタの変化をヴァールは毎年楽しみにしていた。
「ヴァールさまぁ。ご用事が終わったのでしたら、わたくしたちとお話しませんこと? わたくしたち、竜王陛下にお会いできるのをとても楽しみにしておりましたのよ。うふふ。ぜひ、わたくしも番にしていただきたいわぁ」
明るい、それでいてどこか誘うような令嬢たちの声に、竜王ヴァールは振り返る。
彼女達は人間国から親善の為に送りこまれてきた年頃の令嬢達だ。両親や兄弟の代理であったり、何かしら理由をつけては機会ある度に送り込まれてくる。デビュタントのときはそれが目に見えて多くなる。
あわよくば番に選ばれれば――といった目論見があるのだろうと思われるが、確かに人間の中から番が見つかることも無いとは言えない。実際、ヴァールの祖父がそうだった。
諸手を挙げて――というわけではないが、可能性が広がるならば、と新獣人国では彼女達の訪問を受け入れていた。
我こそは――とやってくる年頃の令嬢達は皆美しい。人間から神々に例えられるほどの美貌を持つとされる竜人の女性も非の打ち所がないほどに美しいが、人間の母親に育てられたヴァールにとっては寿命の短い人間ならではの命の輝きこそがこの上なくまぶしくみえる。
間違いなく大人の階段を上り始めている人間の令嬢達との交流も、ヴァールにとって心躍るものだった。
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