【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る

堀 和三盆

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8 新たな出会い

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「やめろ! 嫌がっているじゃないか!!」

 なぜこんなところに――? そう聞きたくなるくらい場違いに感じるほどの美形。多少汚れてはいるものの、金髪、碧眼の服装も煌びやかなまるで王子様のような外見の男。

 颯爽と現れ助けてくれたその男は見た目の格好良さと威勢の良さとは対照的にあっという間にボコボコにやられて――リベルタは慌てて回復魔法をかけ、連れて逃げるはめになった。


「君! ケガはないか!?」

 あちこちの骨が折れ、出血も酷かった男を宿屋まで運び、意識がないまま数日間生死の境を彷徨いながらもどうにか目を覚ましたところで男が放った第一声がそれだった。


「いや、それこっちのセリフだから!!」


 寝ずに看病をしていたリベルタが思わずツッコミを入れてしまったのは仕方ないことだと思う。

 リベルタがびっくりするほどに男は弱かった。よくあの高難易度のダンジョンに潜れたものだと思っていたら、高額の報酬で高位の冒険者を雇っていたらしい。
 ……相手に言われるがまま報酬を先払いにしたせいで騙され置いて行かれたらしいが。

 リベルタの番である竜王ヴァールとは似ても似つかない、弱くて種族的に寿命も短い、頼りない人間の男――。
 それでも絡まれ困っていたリベルタを助けに入ってくれた思いに『嘘』はなかった。


 見かけとは違い戦闘力の高いリベルタに助けは必要なかったが、自らのせいで男が怪我をしたのも事実。表面上のケガは治癒魔法で治したが、内部の損傷が酷く自然に体を動かせるようになるまでにまだまだ時間がかかる。

 騙されたせいで有り金をほとんど持っていかれたという男をこのまま放り出すわけにもいかず、仕方なしに面倒を見ているうちにリベルタは男を放っておけなくなってしまった。

 男は自分をオネストと名乗った。

 名乗る際に少し言いよどんでいたので、リベルタは偽名ではないかと疑ったが男の言葉にやはり『嘘』はない。詳しく話を聞くうちに、姓を名乗ることを禁止されてしまったために名乗るかどうかを迷ったせいだと判った。


 オネストはとある国の王子だった。

 正妻である王妃の子供だったが愛妾に阿る貴族に政略で陥れられて地位を失い、国を追いやられてしまった――。


 オネストが笑いながら話すそんな嘘みたいな話も、竜人であるリベルタには真実だと見抜くことが出来る。持ち出した私財で冒険者になり身を立てようとしたが、馬鹿正直に自らの境遇を話すせいで騙されカモにされ続けていることも。

 滲み出る高貴な血筋は隠しきれていないし、顔だけならヴァールといい勝負かもしれないが――オネストには王族として絶対的に必要な物が足りていない。正義感が強く馬鹿正直すぎて、人の上に立つのに向いていないのだ。

 それでも――庶民に交じって暮らすオネストに周囲を馬鹿にする様子は見られない。

 世の中の後ろ暗い部分を覗き見るたびに心を痛めて、自分にもっと力があれば――とアレコレ思い悩む姿を見て、この男の創る国を見てみたいとリベルタは思った。


 そして考える。


 先祖返りとはいえリベルタも竜人。王族であるヴァールほどではないが政略には長けている。

 オネストに足りない部分は自分が補ってやれば、それも不可能なことではないと。




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