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5 キープの番は国を出る

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 リベルタの番は竜王ヴァール。それは間違いないが、リベルタがそれを言う訳にはいかない。国王の番を決めるのは国王のみ。そうでなければ、番の判別機能が弱い王族は寵を求め、権力を得ようとする者たちに利用されてしまう可能性があるからだ。

 リベルタも、湧き上がるヴァールへの愛情を感じながらも、それを両親にすら伝えられずにいた。



「お帰りなさい、リベルタ。今日はどうだった?」

 成人の祝いから戻ったリベルタを期待に満ちた顔で出迎える母。かけられた言葉に首を振るリベルタ。それで十分だった。もう、何年もそうしてきたのだから。

 あとはやけ食いでもして眠るだけ――と、そう思っていたが、この年は違った。

 話があるからと、リベルタは両親から応接間に来るようにと伝えられたのだ。



「初めまして! リベルタお義姉様!!」


 応接間には可愛らしい猫獣人の男の子がいた。両親の説明によると、遠縁の子供らしい。

 本来なら婿をとり、伯爵家を継ぐはずだったリベルタ。一向に終わらぬ番判定に業を煮やし、両親が動いたということか。それもこれも、とうに成人年齢を過ぎているにもかかわらず、リベルタがいつまでも結婚を許されぬ中途半端な存在でいるせいで。

 沈み込みそうになる気持ちを、救い上げてくれたのは両親だった。


「リベルタ、伯爵家はこの子に任せることにしたわ。人間の血が強いせいで番判別機能は弱いけど、その分この子に番に対するこだわりはないらしいわ。だから、結婚に手間取ることもない。それにとても優秀なの。だから貴女は安心して、好きな人を見つけて結婚していいのよ」

「お母様……それ、は……!」

「リベルタ、こんな風にしか貴方の幸せの後押しをできない私達を許してね。でも、お父様もお母様も、貴女には憂いなく幸せになって欲しいのよ。その為にはこの子の手助けが必要なの。勿論、貴女次第だけれど。選択肢は多い方がいいでしょう?」


 リベルタがこの国で結婚する為には、成人の祝いの席でヴァールから「お前を愛することはない」と宣言してもらわなければならない。でも、このままではその言葉を貰えぬままに、悪戯に月日だけが過ぎていくことになる。
 いつまでも成人として認められないまま、適齢期を終えてしまう可能性だってある。

 それを避けるためには――国外での婚姻しかない。

 伯爵家の一人娘という枷を外されたリベルタは、これで国を出て自由に恋をすることが出来るのだ。

 おそらく両親は言わずともリベルタの番がヴァールであることに気が付いている。彼がこのままではリベルタを選ぶ可能性が低いであろうことも。その上での、リベルタを自由にするための養子縁組――。


「ありがとうございます、お父様、お母様。それに――可愛い義弟。私は――国を出たいです」


 気が付けばリベルタは笑っていた。デビュタントで、恋を語らう新成人の少女たちのように。




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