【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る

堀 和三盆

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2 キープの番

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 かつて。人間の国に取り込まれる際、驚異的な寿命や神秘的な力に目をつけられて、政略に利用されてきた高貴な血筋である旧獣人国の王族たち。

 結果、高位の者ほど人との混血が進み、獣人としての本能が薄い。それ故、番を感知する器官の働きが弱く、番の判別に時間がかかるのだ。
 竜人である王族は殊更その傾向にあった。

 それでも人間社会に組み込まれ、政略結婚を繰り返してきたからこそ王族の血筋を残せたわけで、だからこそ正統性を掲げて念願の独立を成し遂げられたのもこれまた事実。

 人間と共に生活し、人間社会の経験を積んだかつての王族の血を守ること――それが独立の際の条件だった。

 本来なら獣人は番との方が子を授かりやすい。かつての王族――竜人もその傾向が強いとされていた。

 こうなった以上は王族の血筋を守るためにも『制度』の方を変えるしかない――その考えの元、新獣人国の建国にあたって特殊なシステムが構築された。

 それが、国王による優先的な番の判別。

 貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。

 だから、国王から成人の祝福をされるとともに、いわゆる戦力外通告をされた娘たちはガッカリしたり、張り切ったりと様々だ。

 我こそは、と思っていた者は落ち込むし、既に番を見つけている者はこれでようやく結ばれることが出来る、と大喜び。そういう制度が出来上がっていた。


 平民にとっては貴族社会を体験できる、貴族にとっては社交界デビューとなる、たった一度の特別な日。


 実はデビュタントの時点で番が見つかっている獣人は意外と多い。王族や王族の血を受け継ぐ公爵家などの一部の高位貴族と違い、政略結婚で無理やり人間と婚姻させられてこなかった平民や旧獣人国から続く中堅以下の貴族などは獣人同士での婚姻が多く、番判別機能を欠くことなく血脈を繋ぐことが出来たからだ。

 いくら王族の番判別機能が弱まっているとはいえ、流石に既に番を見つけている者は感覚で『違う』と判別できる。だから婚姻は出来なくとも、デビュタント前に番探しを行うことは黙認されていた。

 そして、デビュタントの翌日は待ってましたとばかりに、たくさんのカップルが誕生するのが常だった。


 多くの者がこの日を境に恋愛が解禁される――のだが。

 人間以外の種族が集まって出来た他種族国家である新獣人国のこと。種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。

 番が見つかっておらず、かつ成長が遅い者はどうしても判別に時間がかかってしまう。流石に未判別の娘を解放するわけにもいかないので、そういう者は特例として成人年齢を過ぎても翌年の判別に再び回される。

 それが――キープの者たちだ。明確な戦力外通告を貰うことが出来ぬままの飼い殺し。大抵は一年以内に判別がつき翌年のデビュタントで解放されるのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。

 竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。新獣人国での成人、及びデビュタントの年齢は16歳。


 既に25歳を過ぎているのにリベルタはいわゆるキープのままだった。



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