6 / 10
6 魅了持ち不審者令嬢の選択
しおりを挟む「……どうやって、ここに入ってきたのですか? もし、自由に気付かれずに部屋まで入ってこられるのだとしたら、前提条件が崩れます。貴方はこの一カ月私から距離を取ってくれていた。旧校舎の屋上から私の行動を見守るだけだった。だからこそ魅了の影響はないと判断しましたが、こっそり入ってきていたのであれば、その時に魅了されていた可能性が出てきます」
「ああ! そのことか! 安心して。僕が部屋に入ったのは今日が初めてだよ。あはは、好きな人の部屋って緊張するね。いつもはプロの王家の影に任せているから」
「プロ…の、王家の影……? ……いつも??」
「そう! 君のお父上は凄いね! 魅了持ちの家族がいると変なのに目を付けられやすいからって、かなり警備が手厚いらしいよ。僕の面倒を見てくれていた、影の父さんたちが感心していた。今日は君のご両親は王家の夜会に出席しているし、君のお兄様である次期伯爵は領地へと視察に行っていて、しかも他の兄弟姉妹がたまたま最近仲良くなった令嬢や令息から突然大人気の観劇に誘われたから警備が分散され手薄で入り込めたけど、普段は王家の影でも入るのにてこずるって言っていたから僕程度では入り込めなかったんだ。庭まで入り込んで双眼鏡で部屋をのぞくのが精いっぱいだった。だから、正真正銘、今が初めてだ。こっそり入り込んで魅了にかかったりなんかしていない。まあ、入り込んだところで既に君に恋をしているからね。今更魅了に惑わされたりなんてしないよ。君の魅了より僕の愛の方が強いから。だから、安心して?」
何一つ安心できない告白を悪気なく聞かされ判断した。王子の言っていることは本当だ。もし、入り込んでいたら彼は正直に言うだろう。
彼は暗部に育てられたというだけあって、やっていいことと悪いことの境界が人とはかなり違うようだ。でも、それゆえ彼の発言は正直で信用できる。
ずっと魅了の影響を受けるのが怖かった。
本心から私を好きになってくれる人なんていないと思っていた。
でも、目の前の彼はそれを私に与えてくれる。
あの日。見合いを断ることで私に希望を与えてくれた人。あの出来事だけが心の支えだった。
真相を聞けばなんか思っていたのとは違っていたし、正直、不審者と呼ばれていた私がドン引きするレベルでおかしな人だけど、彼とならば魅了スキルの影響を気にせずに生きていくことが出来るだろう。
でも、それは『彼』限定の話だ。王族である彼が表舞台に戻った今、それはそれで大きな問題がある。国の代表ともいえる王族の妻が、不審者なのはまずいのではないか。
「……私、この格好やめる気ないけどいいの? 貴方以外への効果は確かだし、ちゃんと自衛はしたいんだけど」
「勿論! 君は気付いていないかもしれないが、魅了などなくたって君は美しすぎるんだ。せっかくの防御を取り去って余計なライバルを増やしたくない。僕は素顔の君も素顔を隠した君も両方大好きだ。本当の美しさは僕だけが知っていればそれでいい。だからサングラスもマスクも好きなだけ続けていいよ。君を安全な座敷牢に閉じ込めたまま周囲に自慢できるのが嬉しいよ!」
さわやかに言ってはいるが言葉のチョイスがおかしい。長年、暗部に育てられてきたのが影響しているのだろうと思う。なんか、色々とおかしな人だけど。
その気持ちと覚悟だけはしっかりと確認できたから。
「……はい。これから、よろしくお願いします。婚約者様」
私は彼の手を取ることにした
57
お気に入りに追加
377
あなたにおすすめの小説

【完結】その令嬢は号泣しただけ~泣き虫令嬢に悪役は無理でした~
春風由実
恋愛
お城の庭園で大泣きしてしまった十二歳の私。
かつての記憶を取り戻し、自分が物語の序盤で早々に退場する悪しき公爵令嬢であることを思い出します。
私は目立たず密やかに穏やかに、そして出来るだけ長く生きたいのです。
それにこんなに泣き虫だから、王太子殿下の婚約者だなんて重たい役目は無理、無理、無理。
だから早々に逃げ出そうと決めていたのに。
どうして目の前にこの方が座っているのでしょうか?
※本編十七話、番外編四話の短いお話です。
※こちらはさっと完結します。(2022.11.8完結)
※カクヨムにも掲載しています。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

最後の思い出に、魅了魔法をかけました
ツルカ
恋愛
幼い時からの婚約者が、聖女と婚約を結びなおすことが内定してしまった。
愛も恋もなく政略的な結びつきしかない婚約だったけれど、婚約解消の手続きの前、ほんの短い時間に、クレアは拙い恋心を叶えたいと願ってしまう。
氷の王子と呼ばれる彼から、一度でいいから、燃えるような眼差しで見つめられてみたいと。
「魅了魔法をかけました」
「……は?」
「十分ほどで解けます」
「短すぎるだろう」

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】乙女ゲームのヒロインに転生したけどゲームが始まらないんですけど
七地潮
恋愛
薄ら思い出したのだけど、どうやら乙女ゲームのヒロインに転生した様だ。
あるあるなピンクの髪、男爵家の庶子、光魔法に目覚めて、学園生活へ。
そこで出会う攻略対象にチヤホヤされたい!と思うのに、ゲームが始まってくれないんですけど?
毎回視点が変わります。
一話の長さもそれぞれです。
なろうにも掲載していて、最終話だけ別バージョンとなります。
最終話以外は全く同じ話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる