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4 王子の初恋
しおりを挟む「確かに最初はサングラスやマスクに惹かれた。でも、それだけじゃないんだ! それに、僕は君の素顔だって声だってちゃんと知っている!!」
声の方へと振り向けば王子がいた。魔術師が着るようなフード付きローブを着ていて全身黒ずくめ。顔を隠すために着けられたであろうマスクだけが白い。
不審者にしか見えない。
ココは私の部屋だ。手紙を読むからと侍女には下がってもらっている。なので、室内には二人きり。ドアは閉まったままだ。
いったい、いつ来たの? どこから入った?
聞きたいことはたくさんある――が、それよりも気になることを言っていた。
「私の素顔を知っている……?」
私は今、サングラスをしている。もちろんマスクも。魅了に対する自衛は学園内にとどまらない。例え自室でも私が警戒を怠ることはない。
伯爵家ではある程度の魅了耐性がある者を使用人として雇ってはいるが、全員ではない。だから食事中もサングラスは外さないし、入浴時以外は何かしらで自衛しているのだ。
それは、あの見合いの日に未来への希望を見つけてからずっと続けてきたこと。だからこそ、伯爵家の使用人のなかですら、新しい者は私の素顔を知らないはずだ。
素顔を晒していたのは見合いの日が最後。そして、それ以前も私は極力人に会うのを避けていた。「会話」は最低限しかしていない。親しく話す機会など、断れなかった見合いの場くらいだ。
つまり。
「もしかして、あの時のお見合い相手……?」
あの、運命の日。お見合い相手に断られたことをきっかけに、自分で魅了への対策が取れる可能性を見つけた日。お見合い自体をコロっと忘れていたくらいだから、お見合い相手のことなんて私はこれっぽっちも覚えていない。
覚えているのは「本人から断られた」という事実だけ。
私の言葉に。ようやく気が付いてくれた――と嬉しそうに頷く王子。
「あの日、少し早めに着いてしまったんだ。必ず見合いを成功させるようにと周囲から言われていたから。来る前に美しい少女の絵姿を見せられた。でも、出迎えてくれたのはサングラスにマスクの君だった。その後、美女と名高いお母上そっくりの美しく着飾った素顔の君と見合いをしたけれど、その時には僕は既に恋に落ちていた。だから魅了にはかからなかった。あの、美しい手入れをされたバラ園での君が忘れられない」
急な話に頭がついて行かない。しかし、どうしても分からないことがある。あの日、見合いを断られたのは私にとって希望だった。
魅了にかからなかったから断った――で、いいのよね?
サングラスとマスクで自衛できたから――と思っていたけど、その姿に恋をしたと言われてしまった。だからこそ魅了にはかからなかった、と。
ああ、もう訳が分からない
信じていた物が、前提条件が崩れていくのを目の当たりにして、足元が揺らいでいくような不安感があふれてくる。
「……どうして。なんで今になってそんなことを言うの? 貴方があのとき自分から断ってきたのよ? その場で言われたもの。『このお話はなかったことに』って」
「あの日、君に恋をした。だからこそ、巻き込むわけにはいかなくなったんだ」
そして、彼は私に語ってくれた。あの日の見合いの裏事情を。
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