【完結】はいはい、魅了持ちが通りますよ。面倒ごとに巻き込まれないようにサングラスとマスクで自衛しているのに不審者好き王子に粘着されて困ってる

堀 和三盆

文字の大きさ
上 下
4 / 10

4 王子の初恋

しおりを挟む

「確かに最初はサングラスやマスクに惹かれた。でも、それだけじゃないんだ! それに、僕は君の素顔だって声だってちゃんと知っている!!」


 声の方へと振り向けば王子がいた。魔術師が着るようなフード付きローブを着ていて全身黒ずくめ。顔を隠すために着けられたであろうマスクだけが白い。
 不審者にしか見えない。

 ココは私の部屋だ。手紙を読むからと侍女には下がってもらっている。なので、室内には二人きり。ドアは閉まったままだ。

 いったい、いつ来たの? どこから入った?

 聞きたいことはたくさんある――が、それよりも気になることを言っていた。


「私の素顔を知っている……?」




 私は今、サングラスをしている。もちろんマスクも。魅了に対する自衛は学園内にとどまらない。例え自室でも私が警戒を怠ることはない。

 伯爵家ではある程度の魅了耐性がある者を使用人として雇ってはいるが、全員ではない。だから食事中もサングラスは外さないし、入浴時以外は何かしらで自衛しているのだ。

 それは、あの見合いの日に未来への希望を見つけてからずっと続けてきたこと。だからこそ、伯爵家の使用人のなかですら、新しい者は私の素顔を知らないはずだ。

 素顔を晒していたのは見合いの日が最後。そして、それ以前も私は極力人に会うのを避けていた。「会話」は最低限しかしていない。親しく話す機会など、断れなかった見合いの場くらいだ。

 つまり。


「もしかして、あの時のお見合い相手……?」


 あの、運命の日。お見合い相手に断られたことをきっかけに、自分で魅了への対策が取れる可能性を見つけた日。お見合い自体をコロっと忘れていたくらいだから、お見合い相手のことなんて私はこれっぽっちも覚えていない。

 覚えているのは「本人から断られた」という事実だけ。

 私の言葉に。ようやく気が付いてくれた――と嬉しそうに頷く王子。


「あの日、少し早めに着いてしまったんだ。必ず見合いを成功させるようにと周囲から言われていたから。来る前に美しい少女の絵姿を見せられた。でも、出迎えてくれたのはサングラスにマスクの君だった。その後、美女と名高いお母上そっくりの美しく着飾った素顔の君と見合いをしたけれど、その時には僕は既に恋に落ちていた。だから魅了にはかからなかった。あの、美しい手入れをされたバラ園での君が忘れられない」


 急な話に頭がついて行かない。しかし、どうしても分からないことがある。あの日、見合いを断られたのは私にとって希望だった。

 魅了にかからなかったから断った――で、いいのよね?
 サングラスとマスクで自衛できたから――と思っていたけど、その姿に恋をしたと言われてしまった。だからこそ魅了にはかからなかった、と。
 ああ、もう訳が分からない

 信じていた物が、前提条件が崩れていくのを目の当たりにして、足元が揺らいでいくような不安感があふれてくる。


「……どうして。なんで今になってそんなことを言うの? 貴方があのとき自分から断ってきたのよ? その場で言われたもの。『このお話はなかったことに』って」

「あの日、君に恋をした。だからこそ、巻き込むわけにはいかなくなったんだ」


 そして、彼は私に語ってくれた。あの日の見合いの裏事情を。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】その令嬢は号泣しただけ~泣き虫令嬢に悪役は無理でした~

春風由実
恋愛
お城の庭園で大泣きしてしまった十二歳の私。 かつての記憶を取り戻し、自分が物語の序盤で早々に退場する悪しき公爵令嬢であることを思い出します。 私は目立たず密やかに穏やかに、そして出来るだけ長く生きたいのです。 それにこんなに泣き虫だから、王太子殿下の婚約者だなんて重たい役目は無理、無理、無理。 だから早々に逃げ出そうと決めていたのに。 どうして目の前にこの方が座っているのでしょうか? ※本編十七話、番外編四話の短いお話です。 ※こちらはさっと完結します。(2022.11.8完結) ※カクヨムにも掲載しています。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

最後の思い出に、魅了魔法をかけました

ツルカ
恋愛
幼い時からの婚約者が、聖女と婚約を結びなおすことが内定してしまった。 愛も恋もなく政略的な結びつきしかない婚約だったけれど、婚約解消の手続きの前、ほんの短い時間に、クレアは拙い恋心を叶えたいと願ってしまう。 氷の王子と呼ばれる彼から、一度でいいから、燃えるような眼差しで見つめられてみたいと。 「魅了魔法をかけました」 「……は?」 「十分ほどで解けます」 「短すぎるだろう」

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】乙女ゲームのヒロインに転生したけどゲームが始まらないんですけど

七地潮
恋愛
薄ら思い出したのだけど、どうやら乙女ゲームのヒロインに転生した様だ。 あるあるなピンクの髪、男爵家の庶子、光魔法に目覚めて、学園生活へ。 そこで出会う攻略対象にチヤホヤされたい!と思うのに、ゲームが始まってくれないんですけど? 毎回視点が変わります。 一話の長さもそれぞれです。 なろうにも掲載していて、最終話だけ別バージョンとなります。 最終話以外は全く同じ話です。

処理中です...