【完結】はいはい、魅了持ちが通りますよ。面倒ごとに巻き込まれないようにサングラスとマスクで自衛しているのに不審者好き王子に粘着されて困ってる

堀 和三盆

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3 王子の熱烈アプローチ

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『好きです。僕と婚約してください。いつも通り旧校舎の屋上から見ていましたが、今日の貴女も素敵でした。サングラスに合わせたのでしょうか。トレンチコートとマスクの組み合わせには流石だな、と思いました。ぜひとも僕もペアルックで一緒に襟を立てて歩きたいです』

『好きです。僕と婚約してください。今日はマスクをしている男子生徒と会話をしていましたね。教室は死角となるので仕方なく旧校舎の屋上から遠隔魔法で見ていましたが、口が見えないと読唇術が使えないので、何を話しているのかが分からなくてヤキモチをやいてしまいました。クラスに潜ませた協力者からただの風邪を引いた生徒だとは聞いていますが、一見ペアルックに見えていたのが悔しいです。なので、僕も今日は丸一日マスクで過ごしました』

 などなど。表向き距離は取ってくれていたものの、王子からの熱烈なアプローチは手紙で続いていた。

 しかも、物理的に距離をとってくれている分、やばい方向へ拗らせている気がする。協力者って誰だ。

 でも、これではっきりした。王子は魅了にかかっていない。

 魅了がかかるのは直に接したときだけだ。目があったり、声を聞いたり。近くにいるだけで発動したりもするけれど、それだってある程度距離をとると解けてしまう。

 ここ一カ月、王子は分かりやすく距離を取ってくれていた。そして、言葉を交わすのは手紙だけ。これでは魅了にかかりようがないし、仮にかかっていたとしてもとっくに解けている筈だ。

 それでも、王子は手紙で思いを伝えてくる。


 なんで? 不審者にしか見えない私のどこにそんなに惹かれたの?


 気になった私は手紙で直接聞いてみることにした。

 そうしたら、まるで事前に準備でもしていたかのようにすぐに返事が届けられた。いや、まだ相手にこちらの手紙が届いているかもあやしい時間ですよ? 出したの5分前……。
 多少引きながらも届けられた返事を読むことにした。



『好きです。僕と婚約してください』――相変わらずの告白から始まる王子からの手紙には、彼の事情が書かれていた。


 我が国の国王は複数の妃が持てるため、彼はその何番目かの妃の産んだ王子だった。そして、産まれてはいけない王子でもあった。

 彼の母親は友好のため輿入れしてきた敵国の姫君。勢力バランス的にもお飾りの妃になるはずだったが、国王との間に真実の愛が芽生えてしまった。そして彼――王子が産まれた。

 既に何人も王子がいたので、その母親である妃たちは面白くない。万が一寵愛を理由に王太子にでも指名されれば政治的にもまずいことになる。

 そして、様々な方面から何度も命を狙われるようになった。

 病弱、引きこもり、人見知り。小さい頃から色んな理由をつけられ、彼が表舞台に出てくることはほとんどなかった。彼を心配した国王によって彼は国の暗部に預けられ、そこで育てられることになったのだ。

 暗部の人間は複雑な家庭事情の者も多い。そんな中、彼らは赤ん坊だった彼を愛情たっぷりに育ててくれた。

 しかし。そこは秘密機関。顔バレするのはまずい。なので、彼を世話する人たちは皆が皆、顔を隠していたそうだ。
 サングラスをして。マスクをして。

 それこそ私のような格好で。


 ……まさか、そんな深い事情があったとは。彼にとって、不審者ルックの人間は愛情を与えてくれる人だった。

 おそらくはそのせいなのだろう。初めて会った時からずっと私のことが気になって仕方がなかったらしい。ここまで心を動かされた令嬢は初めてだった――と熱烈に私への恋心を手紙に書き綴っていた。

 まあ、そりゃそうだ。年頃の貴族の令嬢で、こんな姿をした人間なんてそうそういないだろう。

『一目ぼれなのです』

 その一言を見て。魅了ではなかったのか、と納得する一方で、割り切れない、やりきれない思いが胸に広がった。

 確かに魅了スキルではない。
 でも。それって。


「……結局は『サングラスとマスク』に魅了されていただけじゃないの?」


 つい。吐き出してしまったつぶやきに。


「いや、誤解だ! それは違う!!」


 即、返答があった。一カ月ぶりの王子の声だ。


 ……え。ここ、私の部屋なんですけど。




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