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2 不審者好きの王子が現れた
しおりを挟む「好きです。僕と婚約してください」
食堂で。急に声をかけられ固まった。念の為に周りを見回すが誰もいない。紛れもなく私に声がかけられているようだ。
目の前には薄い金髪に紫の目をした優しげな美形の王子様。彼のことは知っている。最近留学から戻ってきた、文字通りれっきとした我が国の何番目かの王子様。そんな彼が頬を染めて熱い視線で私を見ている。それを見て。
あー……。もしかして、どっかで魅了かけちゃった?
と思った。気を付けてはいるけれど、どうしても漏れは出てきてしまう。サングラスを拭くタイミングで。驚いてうっかり悲鳴をあげたときに。音楽の授業で。その他、自分でも予想外の所でひっかけてしまうことがあるのだ。
それでも自衛をしている分、魅了のかかりは弱いので2~3日も離れていればキレイに解ける。彼は長いこと国を離れていたそうだから、情報不足で私への注意と警戒を怠ったに違いない。
「あ、聞かなかったことにしますので、お気になさらず。あー、みんなー、いつもの私の『うっかり魅了』だから。お騒がせしてごめ~ん☆」
軽い感じでおどけて見せれば、一瞬静まり返った食堂が再び活気を取り戻す。笑顔の溢れる楽しげな食堂。その様子にほっとする私。
何故か、目の前の王子だけが不本意そうだった。
「好きです。僕と婚約してください」
これで何度目だろう。あれから毎日のように王子に告白されている。2~3日離れれば魅了は解けるからと言っているのに、行く先々に現れるのだ。
魅了にかかっているだけだ、ちゃんと現実を見ろ、と不審者ルックを見せつけるように言っても王子はさらに頬を染めるだけ。ちょっと離れたところから私を見守るその姿はさながら不審者のようだった。
どう見ても私の方が不審者なのに。
そんなことが続いているうちに、学校で噂が流れるようになった。
私が魅了の力を使って王子を誘惑している――と。
ああ、嫌だ、と心底思う。女同士の足の引っ張り合い。取った、取ってない、の押し問答。ギスギスした空気。私が一番苦手としているものだ。
小さい頃から。母親、兄弟姉妹、そして、自分。皆が皆、制御できない魅了スキルに振り回されて、周りから異常に好かれたり影で嫌われたり。
お茶会やパーティー、人が集まる場所が苦手だった。人と会えば魅了してしまう。そうすると人間関係が不自然なものになる。家族ですらある程度は影響されてしまうのだ。それが他人相手なら尚のこと。
だから、不審者ルックで自衛ができると分かった時には嬉しかった。相手に迷惑が掛からないということは、自分が嫌な思いをするのも防げるのだから。
贅沢かもしれないが、自分ではどうにもならないことで好かれるのも嫌われるのも嫌だった。魅了スキルで好かれても嬉しくなんかない。
好かれなくていいから、嫌わないで。
何もしないから。私のことはどうか放っておいて。
その結果がこの格好だった。目線を隠し、声を抑えて。必死に壁を作ってきたのに。勝手に魅了された人のせいで、私の平穏な生活が脅かされる。
追い詰められた私の心情に気が付いたのだろうか。王子が『距離』をとってくれるようになった。面と向かって告白されることもなくなって、一カ月もする頃には面倒な噂も収まった。ああ、これで平穏な暮らしが戻ってくる。
今日も距離をとって。はるか遠く旧校舎の上から双眼鏡でこっそり私をガン見している王子を見て気が付いた。
あれ? 王子魅了にかかっていなくない??
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