【完結】はいはい、魅了持ちが通りますよ。面倒ごとに巻き込まれないようにサングラスとマスクで自衛しているのに不審者好き王子に粘着されて困ってる

堀 和三盆

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1 不審者令嬢

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「はいはい、魅了持ちが通りますよー」

 休憩時間、トイレからの帰り道。教室の入り口にたむろしている男子生徒に一声かけてから前を通る。手の平をぴんと伸ばし上下に揺らしながら周囲に警戒を促すのも忘れない。

「あはは、押すなよー。あ、うわっ!」

 トン☆

 それでも。ここまで注意しても事故は起こる。話に夢中になっていたクラスメイトの一人がよろけて私にぶつかってしまった。

「悪ぃ、悪ぃ……げっ! アイリーンじゃん! 気を付けろよなー、俺、まだ婚約すらしてないのに」

「あれれ? 惚れちゃった? んじゃ、特別サービス『魅了ウイ~ンク☆』! ……どう? 魅了されちゃった??」

「されるかっ! サングラスで瞬きすら見えねえっつうの! サングラスにマスクの不審者令嬢なんかに魅了なんてされねーよ!!」


 ド……っとクラスに笑いが起きる。

 よし! 私の防御は今日も完璧のようだ。



 私は強度の魅了持ち。私の家系は魅了のスキルが出やすいらしく、何人もいる兄弟姉妹のうち、程度の差はあれ半分近くにそれが現れている。

 母親も強い魅了スキルをもっているのでそれが引き継がれたのだと思う。母親は絶世の美女ともいわれていた容姿も相まって、若い頃は色々とスキルがらみで問題を起こしていたそうだ。

 長男と末っ子を除き、兄弟姉妹の容姿にほとんど父親の面影を感じないあたりに色々な事情を感じるが、家族はそれなりに上手くいっているのでそれは考えないことにしている。

 それよりも。

 持って産まれたスキルのことは仕方がないが、これに振り回される事だけはどうにか避けたい。なにより周りに迷惑をかけるのは嫌だ。
 そう強く思った私は対策を取ることにした。


 サングラスにマスク。


 それに気が付いたのは偶然だった。まだ小等部だったときのことだ。

 なぜか私は植物育成系の魔法が使えるので庭いじりが好きなのだが、私が世話をしている庭のバラ園の害虫駆除作業を行っているときに気が付いた。

 薬剤から身を守るために身に着けていた古いサングラスとマスク。うっかり来客の予定を忘れて作業に没頭してしまい、それらを着けている状態で見合い相手に遭遇してしまった。そして相手から見事に振られてしまった。

 これは衝撃だった。

 それまで垂れ流し状態だった魅了が相手に効かなかったのだ。つまりは自分で対策が取れる可能性が出てきた、ということ。


 それから私は実験を繰り返した。あまり面識のなかった使用人や出入り業者にも協力してもらい、どうすれば魅了の効果を打ち消せるのかを徹底的に洗い出した。

 『目線』。『声』。相手との『距離』。

 このあたりが大きく関わっているようだった。そして、魅了はどうも好感度を上げる作用を持つらしい。
 だから私は考えた。上がった分を下げれば、効果を打ち消したのと同じことではないか――と。

 そこで、効果的だったのがこの不審者ルック。

 サングラスで目線を隠し、マスクで声をくぐもらせることで魅了の力を抑えることが出来る。相手に警戒を促し自然に距離を取ってもらえるうえ、上がった好感度は不審者効果で見事に打ち消せる。何なら嫌われることすらある。

 家族は何もそこまでしなくても……と言うが、人に迷惑をかけるのは嫌なのだ。

 それに、この格好は魅了スキルを打ち消すためですよー。この格好の私は安全ですよー。と周囲にアピールし続けることによって、不審者ルックのせいで必要以上に嫌われることは無くなった。

 学園ではすっかりクラスのお笑いキャラとして定着してしまったが、色恋でドロドロした空気になってしまうよりずっといい。

 そのお陰で魅了持ちにもかかわらずまだ婚約すらできていないが、兄弟姉妹は多いので私一人くらい嫁に行かなくても問題ないと思うし、何なら卒業したら修道院に入ってもいいとすら思っている。穏やかな暮らしができるなら私は何でもいいのだ。

 だから。

 そんな私みたいなサングラスにマスクの不審者令嬢に、熱い視線を送ってくる人間が現れるなんて思ってもいなかった。




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