【完結】番が見ているのでさようなら

堀 和三盆

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64 二人で歩む幸せな生活(ふわふわ耳視点)

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「す、すいません。……私ったら。あまりにも幸せで、つい喉を鳴らしてしまって……」


 ……と、言っている傍から顔がにやけるのが止められない。
 だって……だって、先生が耳を撫で続けているから……っ!!

 ああ、もう。こんな調子で嫌われたらどうしよう……と思って先生の様子を窺えば。


 いつもは無表情と言ってもいいくらいに怜悧に整った切れ長の目をまん丸にして。

 その同じ目を柔らかく細めて。


「ふわふわ耳のあの子に会ってからずっと――私はやたら大人びたあの子の、子供らしい笑顔を取り戻してやりたいと思っていたんだ。ようやく願いが叶った。その笑顔が見られただけで私も幸せだ」

 ……と、今まで見たことがないほどの穏やかな顔で微笑んだ。


「先…生……っ」

「え!? ちょ……なんで泣く!?」


 モフモフモフモフモフ……ッ!!
 モフモフモフモフモフ……ッ!!!

 先生の『幸せだ』の言葉を聞いた途端、私の視界が涙で滲んだ。けれど、大慌てて耳を撫でだす先生に、出かけた涙が引っ込んだ。

 ……何故か。先生の中で『耳を撫でると笑顔になる』と誤解をされているようだ。先生らしい勘違いに、ついクスクスと笑ってしまう。これではますます誤解が進んでしまうのに。


 それで安心したのか。手触りが気に入ったのか。
 その後も私の耳を撫で続ける先生。

 モフモフモフモフモフ
 モフモフモフモフモフ


 先生から与えられるその幸せな感触を私は心の底から楽しんだ………………の、だが……。


 モフモフモフモフモフ……
 モフモフモフモフモフ……
 モフモフモフモフモフ……
 モフモフモフモフモフ……


「あの……先生?」

 モフモフモフモフモフ……モフモフモフモフモフ……
 モフモフモフモフモフ……モフモフモフモフモフ……
 モフモフモフモフモフ……モフモフモフモフモフ……

「ええと……」

 モフモフモフモフモフ……モフモフモフモフモフ……
 モフモフモフモフモフ……モフモフモフモフモフ……
 モフモフモフモフモフ……モフモフモフモフモフ……
 モフモフモフモフモフ……モフモフモフモフモフ……


「あの……そろそろ……その辺で」

モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ


『シャ――――――ッ!!!』


 ぴた。


 しまった、つい、大恩ある先生に対してシャ――ッと威嚇をしてしまったわ!?

 先生は耳を撫でる手をピタリと止めて。
 先ほどに続き、知的な切れ長の目をまん丸に見開いて、私を凝視したと思ったら。


 カリカリカリカリ……
 カリカリカリカリ……

 いつものごとく熱心にメモをとりだした。


 ……いったい何を書いているのかしら?
 と、言うか。よく見ると先生のそれ、いつもの仕事用のメモ帳とは違うわね? そう言えば、前も私の時だけいつもメモ帳の色が違っていたわ。

 え。もしかして……それって私専用ノート? 何!? 先生ったら、それにいったい何を書いているの!?


「あ、あの先「おっと、私はそろそろ研究に戻らないと。休憩は終わりだ。それじゃあ、グロースまた後で」」


 にっこり。


 パタリとメモ帳を閉じると、先生は研究室へと戻っていった。

 ……メモの中身が気になって仕方がない私。

 次の休憩時間には絶対に中を覗いてやるわ……と思うものの、休憩の度に弱い耳をモフられて、うっとりさせられて、…最後にはイラっとさせられて。ずっと同じことの繰り返し……。

 ちょっと変わってはいるけれど、こんな生活を私はとても気に入っている。

 ――――でも。


 い…、いつか、ゼッタイメモ帳の中身を覗いてやるんだから……っ!!




 ――――そんな、二人で歩む幸せな生活はまだはじまったばかり…………。





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