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63 魔法医とふわふわ耳の女の子(ふわふわ耳視点)
しおりを挟む「先生? 休憩……なんですよね? これは休憩になっているんでしょうか?」
「もちろんだ。私も休憩時間は好きなことをしたいからな。考えてみたら、妊娠中の獣人をこんなに間近で診られる機会などそうはないだろう? せっかくだからしっかりと記録を取りたいと思ったんだ。グロース、食欲は? つらいところはないか? ふむふむ……そうか」
カリカリカリカリ…
カリカリカリカリ…
そうやって。細かく私の体調を気遣いながら、回答を真剣にメモする先生を見ていたらついクスッと笑ってしまった。
すると、不意に先生が私をじっと見つめてきて。
「……」
「先生?」
「グロース。君は…今、幸せか?」
……と、少し躊躇いがちに聞いてきた。急にどうしたのだろうか。けれど、その質問の答えは考えるまでもなく決まっている。
「勿論です。先生に病気を治してもらって、大好きな先生と結婚出来て……そのうえ、こうして子宝にまで恵まれました。私にとってこれ以上の幸せはありません。毎日、先生から名前を呼んでもらう度に、幸せを感じています」
「…………。」
「先生? あの……どうかしたんですか?」
「グロース……そう言えば、君は私を名前で呼ばないな?」
「お名前でお呼びした方がいいですか? シアンス様」
「……。なんかしっくりこない」
「前世の記憶があるからでしょうか? 前回はシエンツァ様でした。その前は……申し訳ございません。私には記憶がないので分かりません」
「それもしっくりこないな……まあ、前世の名前など覚えていないから当然か。研究のことはよく覚えているが、自分の名前などは別にどうでもよかったからな」
「ふふふ……先生らしいです」
「『先生』…か。うん。やはりそれが一番しっくりくる。まあ、『全ての私』に共通するものだしな」
「先生。私はどの先生にも感謝していますよ。どの私も、先生のお陰で救われましたから」
「そうか。……ま、今まで通り『先生』と呼んでもらうのが一番公平でいいのだろうな」
「ふふふ……そうですね」
そう言って笑う先生は、何故かスッキリした顔をしていた。
「グロース……少し触ってもいいか?」
「はい」
先生はソファーに座る私の横に腰を掛けると、そっと私のお腹に手を添えた。我が子の存在を確かめるような先生のその行動に、ビックリすると同時に幸せを感じてしまう。
身体を預けるようにそっと先生にもたれかかると、先生はお腹に添えていた手を私の頭の方へと移動させた
そして。
モフッ☆
……と、優しく耳に触れた。
「せ…先生?」
「……不思議だな。たとえ何度生まれ変わっても。自分の名前や家族のことを忘れても――君と、このふわふわ耳のことだけは忘れたことがなかった」
「……!」
先生はまるで大切な物を扱うように、私の耳を撫でた。
最初は生え際を確かめるようにやや遠慮がちに。慣れてくると毛並みに沿うように手触りを楽しみながら。
――何度も私を救ってくれたその大きな手で。
優しく優しく。何度も何度も何度も。
毛並みを整えるように撫でてくる先生のソレがあまりにも心地よくて、私はうっとりしてしまう。
大好きな先生
優しい先生
いつだってお仕事最優先で。
それ以外のほとんど全てを犠牲にして、私を病気から解放してくれた……。
その先生の大きくて優しい手で繰り返し耳に与えられる心地よい刺激は、私の理性と本能の限界を簡単に取り去ってしまう。
(……先生を幸せにすることが目標だったのに、私ばかりがこんなに幸せで良いのかしら――)
……と、申し訳ない気持ちになりながらもだらしなく顔が緩むのが止められない。
そして、つい。
ゴロゴロゴロゴロ……
ゴロゴロゴロゴロ……
「……グロース。今のは?」
――はっ!? い、嫌だわ、私ったら!! 人前で喉を鳴らしてしまうなんてっ! こんなの獣人貴族マナーの中でも、初歩中の初歩じゃないの! はしたないっ!!
元王族である先生に嫌われないように、マナーには人一倍気を付けていたのに、なんてことっ!
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