【完結】番が見ているのでさようなら

堀 和三盆

文字の大きさ
上 下
62 / 64

62 二人で歩む初めての結婚生活(ふわふわ耳視点)

しおりを挟む
「グロース…」

「お帰りなさい、先生! 少し元気がないみたいですが、何か悩み事ですか?」


 愛しい人の声がする。

 本当は足音で帰ってくるのが判っていたけれど、今日は体調が悪くて動けなかった。

 そういう時は無理して玄関まで迎えに出ようとせず、大人しく座っているよう厳しく言われている。……ので、きちんと言いつけを守っている。

 無理をしても、先生には顔色一つで伝わってしまうのだから仕方がない。二回も看取ってくれた先生にとって、私の健康状態など手に取るように分かるのだ。

 ――が、それはこちら側にも言えること。
 先生の声を聞けば、何か悩みを抱えているのが分かるのだ。


「ああ……実は、同僚に親睦会に誘われてしまってな……行った方がいいのは分かっているのだが、今、研究がいいところなんだ。欲しかった資料がやっと手に入って……」

「なるほど。……つまり、先生は親睦会に参加をせずに、資料読みを優先させたいのですね? それならばいい口実がありますよ。『身重の妻が心配なので傍に居てあげたい』と言えばいいんです」

「それだけで? 私が妊娠しているわけでもないのに?」

「はい! これなら上手く断れるうえに、周囲からの先生の評価も上がります。しかもこれ、数カ月は同じ言い訳が使えるんですよ」

「それは素晴らしいな! そんな言い訳、私では考えもつかなかった。ありがとう。助かったよ、グロース。早速明日使ってみるとしよう」

「うふふ、先生のお役に立てて良かったです!」





「……ええ……と、…先生? 何して……??」

「……ん? ああ、悪い。起こしてしまったか」


 日差しはぽかぽか。買ったばかりのクッションはふわふわ。少し開けた窓からは爽やかな風が入ってきて心地がいい。

 ソファーでつい居眠りをして、目が覚めたら先生が私の血圧を測っていた。



 親睦会当日。

 予定通りに先生は職場の親睦会を欠席し、嬉々として自宅の研究室に籠り資料を読み込んでいたはずなのだが。


「ふむ、血圧は正常だな」

 そう言うと、今度はそのまま流れるように熱を測られた。

 前世から長く続く習慣から、つい先生のなすがままになっていたが。……よく考えると理由が分からない。
 特に体調を崩しているわけでもないのだが。


「あの……先生? 言い訳に使ったからと言って、本当に私についていなくてもいいんですよ? せっかく親睦会を欠席したのに、研究の方はいいのですか?」

「ん? ああ、研究なら君のお陰で順調だ。気になっていた資料を読み終えて、キリがいいから休憩をとっていたんだ。ふむ、こちらも特に問題はないようだ」


 カリカリカリカリ…
 カリカリカリカリ…

 例のごとく何やら熱心にメモを取る先生。これは、いったい何をしているのかしら??

 先生の考え方や行動は全て把握しているつもりだったけれど、コレは初めてのことなので流石によく分からない。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている

百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……? ※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです! ※他サイト様にも掲載

おいしいご飯をいただいたので~虐げられて育ったわたしですが魔法使いの番に選ばれ大切にされています~

通木遼平
恋愛
 この国には魔法使いと呼ばれる種族がいる。この世界にある魔力を糧に生きる彼らは魔力と魔法以外には基本的に無関心だが、特別な魔力を持つ人間が傍にいるとより強い力を得ることができるため、特に相性のいい相手を番として迎え共に暮らしていた。  家族から虐げられて育ったシルファはそんな魔法使いの番に選ばれたことで魔法使いルガディアークと穏やかでしあわせな日々を送っていた。ところがある日、二人の元に魔法使いと番の交流を目的とした夜会の招待状が届き……。 ※他のサイトにも掲載しています

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』

伊織愁
恋愛
 人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。  実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。  二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

運命の番様。嫉妬と独占欲で醜い私ですが、それでも愛してくれますか?

照山 もみじ
恋愛
私には、妖精族の彼氏で、運命の番がいる。 彼は私に愛を囁いてくれる。それがとってもうれしい。 でも……妖精族って、他の種族より綺麗なものを好むのよね。 運命の番様。嫉妬して独占欲が芽生えた醜い私でも、嫌わずにいてくれますか? そんな、初めて嫉妬や独占欲を覚えた人族の少女と、番大好きな妖精族の男――と、少女の友人の話。 ※番の概念とかにオリジナル要素をぶっ込んでねるねるねるねしています。

あなたの運命になりたかった

夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。  コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。 ※一話あたりの文字数がとても少ないです。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...