上 下
61 / 64

61 名もなき番(番視点)

しおりを挟む
 魔法契約をしている俺は番に近づくことが出来ない。
 けれど、結婚式に潜り込めれば、あの子の名前を知ることくらいはできるはずだ。


 俺はそう思って結婚式当日に大聖堂へと向かったが、なぜかとんでもなく警備が厳しくて、とてもじゃないが猫の子一匹大聖堂の中に入ることは出来そうもなかった。

 仕方がないので獣化して大聖堂の屋根へと上り、こっそり窓から中を覗くことにした。自慢の耳を澄ましてみたが、防音魔法でもかかっているのか、中の音はいっさい聞こえなかった。

 音すら漏らさぬように警備体制が徹底されているようだ。


 そうこうしている間に、ガラス越しに番の結婚式は粛々と進んでいく。


 誓いを終え、新郎にエスコートをされながら、番がこちら側へ退場してくる姿が見えた。
 一歩一歩、幸せをかみしめるように人間のオスと共に歩みを進める番の顔を見て――彼女が今幸せなのが分かった。


 それが悔しくて――ただ、その笑顔を見られたのは嬉しくて。よく分からない涙で頬の毛が濡れていく。


 警備をしている人間が近づいてくる気配がしたので、俺は慌てて屋根から降りてその場を離れた。







 しゃらり……しゃらり……

 あれから数年。
 隣国へと渡った俺の胸元にはどうしても手放すことの出来なかった番に貰ったあのネックレスが揺れている。


 彼女を路地裏に追いつめるよりも、既成事実を作ろうとするよりも。俺にはもっと先にするべきことがあったのだと今なら分かる。

 今更それに気が付いても、もう手遅れだ。
 結局――俺は生まれ変わった今世でも番の名前を知ることすら出来なかった。


 そして。


『二度と同じ失敗を繰り返さないように。もしも転生した後、再び番の視線を感じることができたら――その場合にのみ、今回の記憶を思い出させてほしい』



 あんな願い事をするんじゃなかった。

 保身に走った救済措置は呪いとなって自らの身に降りかかった。


 名前も知らない愛しい彼女の記憶を持ったままで――。

 俺はこの先、番がいない人生を一人で生きていくことになる。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

くたばれ番

あいうえお
恋愛
17歳の少女「あかり」は突然異世界に召喚された上に、竜帝陛下の番認定されてしまう。 「元の世界に返して……!」あかりの悲痛な叫びは周りには届かない。 これはあかりが元の世界に帰ろうと精一杯頑張るお話。 ──────────────────────── 主人公は精神的に少し幼いところがございますが成長を楽しんでいただきたいです 不定期更新

番認定された王女は愛さない

青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。 人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。 けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。 竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。 番を否定する意図はありません。 小説家になろうにも投稿しています。

『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』

伊織愁
恋愛
 人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。  実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。  二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』

あなたの運命になりたかった

夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。  コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。 ※一話あたりの文字数がとても少ないです。 ※小説家になろう様にも投稿しています

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

番は君なんだと言われ王宮で溺愛されています

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私ミーシャ・ラクリマ男爵令嬢は、家の借金の為コッソリと王宮でメイドとして働いています。基本は王宮内のお掃除ですが、人手が必要な時には色々な所へ行きお手伝いします。そんな中私を番だと言う人が現れた。えっ、あなたって!? 貧乏令嬢が番と幸せになるまでのすれ違いを書いていきます。 愛の花第2弾です。前の話を読んでいなくても、単体のお話として読んで頂けます。

[完結]間違えた国王〜のお陰で幸せライフ送れます。

キャロル
恋愛
国の駒として隣国の王と婚姻する事にになったマリアンヌ王女、王族に生まれたからにはいつかはこんな日が来ると覚悟はしていたが、その相手は獣人……番至上主義の…あの獣人……待てよ、これは逆にラッキーかもしれない。 離宮でスローライフ送れるのでは?うまく行けば…離縁、 窮屈な身分から解放され自由な生活目指して突き進む、美貌と能力だけチートなトンデモ王女の物語

処理中です...