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60 結婚式
しおりを挟む「リュシー先生、お嬢様そろそろ出てくる!?」
「そうねぇ……そろそろ時間だけど。私達はここまでしか入れないから、ここで待っているしかないわね」
「お嬢様、わたしたちが孤児院で育てたお花、喜んでくれるかしら?」
「もちろんよ。それは先生が保証するわ」
「せっかくお嬢様に誘われたんだから、リュシー先生も結婚式に出席すればよかったのに」
「え!? え~と……それは……っ、そのぅ…」
「あはは! リュシー先生、お耳がしょんぼりしてる~!」
「コラ! 年少組代表はリュシー先生をからかうな。大人は僕らと違って色々と難しいことがあるんだよ。だいたい、先生がこうして引率をしてくれたから、僕らが孤児院の皆を代表して、お嬢様にこのお花を渡せるんだからな」
「はーい。あ、年中組の代表もどってきたよ!」
「良かった、間に合ったわね。お手洗いの場所解った?」
「うん」
「どうしたの? キョロキョロして」
「あのね、リュシー先生。さっき、すごくキレイな猫さんがいたんだ。大聖堂の屋根に上って、窓からずっと中を覗いていたみたいなんだけど……」
「あら。ふふふ。その猫さんもお嬢様のお祝いに来てくれたのかしら。先生も見たかったわ」
「もう逃げちゃった。でも、変なんだ。猫さんなのに、すごく奇麗なネックレスを着けてたの。王都では猫さんもおしゃれをするの?」
「ネックレス? それって、もしかし……あ!! 皆、お二人がいらしたわよ」
「わぁーい、本当だ! お嬢様いつも可愛いけど、今日はキレー…あっ、手ぇ振ってる。こっちに来るよ!!」
※※※※※※※
(番視点)
「そうか……二人は大聖堂で結婚式を挙げるのか」
「おうともよ! すっげーよな。うちの先生、空きがあるって聞いて、珍しくコネ使ってまで予約もぎ取っていたからな。こんなの一生モンの思い出だろ。まあ、もっとも、屋敷の女性陣にはドレス作る時間や準備期間を考えろって、散々怒られていたけどな。ただ、当のお嬢さんの方はにっこにこで…」
釈放されてから。心配してか、監視のつもりか、犬が家に入り浸るようになった。家に来るたびに、いかに二人が順調かを聞かされて、既に折れるような心も残っていない。
家に戻った俺は残りの女達とも手を切った。
元の生活に戻れると言われたが、とてもじゃないがそんな気にはなれなかった。
今更手遅れなのは分かっているし、地位的にも能力的にも新しい番に敵わないのも解っているが、あのまま女をとっかえひっかえしてフラフラしているような生活には戻れなかった。
俺は……この先どうするのだろう。
どうしたいのだろう。
前世でも真面目になろうとして……結局は中途半端に挫折した。無気力に流されるままに過ごし、家族にすら見放された。番を失った俺は、また同じような人生を繰り返すのだろうか。
あのとき。やきもちを焼かせようなんて馬鹿なことを考えないで、すぐに改心していれば何かが違っていたのだろうか。番と二人で幸せになる未来もあったのだろうか。
考えても、考えても答えは出ない。
(隣国……か)
とりあえず、行ってみるのもいいかもしれない。何が変わるのか。変われるのか。全く想像もつかないけれど。
前世のように無気力に生きるよりはましだと思うから。
そう思ったら意外と行動は早かった。住んでいるところを引き払って。不用品は――金に換えて。
大切な物だけを持って、心機一転やり直そうと思った。
そうして全ての準備を整えたとき。
俺はあの子の名前すら知らなかったことに気が付いた。
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