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54 女神様との対話 ~前世での女神様の救済措置~
しおりを挟む「残念だけど、そのお願いだけは聞けないわ」
「どうしてですか?」
「誰にだって、『この人がいい』って憧れのようなものがあるでしょう? それを全て叶えていたら他人の番を奪ってしまうことになったり、本来歩むはずだった幸福な運命を捻じ曲げてしまったり、キリがなくなってしまうから。混乱を避けるために例外なくそういったお願いは認めないことにしているの。だから特定の人物を番に指名することはできないわ」
「……なるほど。確かにそうですね」
『先生を私の番にして欲しい』――そう頼んだが女神様に断られてしまった。そして理由を説明してもらえば、すべて納得がいくことばかり。残念だけど女神様が正しいわ。
私は見た目こそふわっふわの耳を持ち、どこからどう見ても獣人の特徴を有しているけれど、実は見た目ほど獣人としての血は濃くない。体が弱いのがその証拠だ。
本来、番同士の間に生まれた子供は優秀で体も強いと言われているのに、年々動くことすら難しくなるほど私の体は弱かった。それこそ両親から失望されてしまうほどに。
……それも、本来ならばあり得ないことらしい。愛する番との子には同じくらいの愛を感じるらしいから。
愛されない番から生まれた子供も愛されない――そんな歪みが出ているのかもしれない。
そう冷静に思えるのも獣人としての血が弱い証だろう。
だからだろうか。
愛されなかった私を愛してくれる存在であるはずの運命の番――それに憧れはするものの、私は他の獣人に比べるとそこまで番に対する愛情は強くない気がしている。
番でありながらお互いに真実の愛を誓った別の相手がいた両親。ならばそちらを選べばよいのにと思いながらも、出会ってしまった以上は番の血を入れることが獣人貴族としての責務なのだ、と嫌々番った事情もよく分かる。それが建国当初から続く獣人貴族としての、我が家の伝統になっていたからだ。
けれど――本来幸せに直結するはずの番との婚姻に愛を伴わなかった結果がコレなのかもしれない。
人間としての理性が獣人としての本能を上回ってしまった時点で、幸せになるために選ぶべき道は別だったのだろう。
――だとしたら。
「じゃあ、今回と同じ貴族家に産まれることはできますか?」
「それは大丈夫だけど――また、同じ病に苦しむことになるかもしれないわよ? その――器の問題だから」
……ああ、やっぱりそういうことなのね。予想通りだわ。
この世界では転生する際、ある程度似たような立場や場所に生まれ変わると言われている。それは、元の価値観が大きく影響する為らしい。
だから人は人に。獣人は獣人に。
転生しても同じ種族に生まれ変わるとされている。そうしないと無意識に持つ習慣や考え方に引っ張られて問題が生じてしまうから。
例外もあるそうだが、そこまで考えるときりがない。
人間の元王族である先生はやはり人間の王族、もしくは上位貴族辺りに転生する可能性が高い。そうすると私が確実に先生に出会う為には、少なくとも転生先が『獣人』で『貴族』である必要がある。
そして、その上で。
何百年先になるか分からないが、私が転生する際に貴族籍が確実に残っている家を選ばなくてはならないのだ。
ところがここで重大な問題が出てくる。獣人貴族は番にこだわるあまり、途中で爵位を手放すことがとても多いのだ。
身体能力が優れた獣人は戦争などで功績を挙げて叙爵される機会が多く、貴族家の数自体は多いのだが、そのせいでどうしても長く続かない。
建国から続く上位の獣人貴族として、爵位の存続の為に政略結婚をためらわなかった私の家の方が特殊なのだ。
その反動で価値観が同じ親族に番が見つかった場合などは両親のようなことになってしまう。家系図を遡れば数代おきに似たようなことを繰り返してきたのが良く分かる。
私の家はそうやってバランスを取りつつ存続してきた。それでもやはり人間との婚姻の方が圧倒的に多く、獣人の血はそれほど濃くない。
――が、そのお陰で獣人に産まれながらも私は番にそこまでの執着をしなくて済んだともいえる。
数百年間後も確実に『貴族』として存続していること。
本能に振り回されないために『獣人としての血が薄い』こと。
この二つが必須条件。そうなると、選択肢はほぼ一つしかない。
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