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50 牢の中の番(番視点)
しおりを挟む『ぜえ…はあ……『先生が番』……? 『女神様』?? おい、今、何て……ちょ、大丈夫か……!?』
俺の番に無断に触れた、弱そうな人間のオスの言葉が頭にこびりついて離れない。
ムカつく。
腹立たしい。
…………けどまさか…。
同じ考えが頭の中をループする。
「……おい、お前。また食事を摂っていないのか。流石に食わなきゃ持たねぇだろう」
「うるさい。放っておいてくれ。お前獣人のクセに、人が番うのを邪魔しやがって」
食事を下げに来た騎士がいかにも、という感じで心配そうに言ってきた。だから、言ってやった。
獣人にとって番との愛は絶対だ。
前回も、そして今回も。俺だって実際に出会うまでは『運命の番』なんて信じてはいなかった。
けれど、他人の考えを否定する気はないし、ましてや邪魔するなんて以ての外だということくらいは理解していた。
「……それだけど、本当にあのふわふわ耳のお嬢さんがお前さんの番なのか? 相手が番を判別できない人間の女ならともかく、獣人相手なら普通、番にあそこまでの抵抗はされないだろう。悪いが、うちの旦那様の方がよっぽどあのお嬢さんと仲が良さそうじゃないか」
「うるさい、うるさい、うるさい!!!」
ゴロンと寝ころび、牢の外から語り掛けてくる獣人騎士に背を向ける。あの時、ようやく出会えた俺と番との仲を引き裂いた犬獣人の男だ。
どうやらここは公爵家の私設騎士団が管理する牢屋らしい。数日前ココに放り込まれてから、犬獣人の男はやたらと世話を焼いてくる。番から拒絶されたと聞き、勝手に獣人同士の仲間意識から同情をしているのかもしれない。
ようやく出会えた番から抵抗される理由なんて俺の方が聞きたい。
番を見つけて俺は前世の記憶を思い出した。そしてそれ以来、俺の世界は一変した。彼女が欲しい。彼女しかいらない。視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚……俺の全ての感覚が運命の番を求めているのが分かる。
どんなに上等な女を抱いたって、ここまでの幸福感を味わったことは無かった。
前世、馬鹿をやって永遠に失ったと思っていた番の存在を確認できた時の俺の喜びが分かるか? 視野は開け、耳は研ぎ澄まされ、離れた所からもその甘やかな香りが感じ取れた。スベスベした肌の感触。本能のままに整えられた指先をなめ上げれば砂糖よりも甘かった。
あと、少しだった。前世の失敗は番によって許された。
俺は間に合ったのに。今度こそ手に入れられたのに。
俺は現在、公爵家の牢にいる。
ここへ連れて来られたということはやはり彼女は公爵家の御令嬢なのだろうか。このまま身分差を理由に引き離されてしまうのか? 運命の番なのに?
番を失うかもしれない。また、あの思いをするかもと思っただけでも恐怖で震えてしまう。
今頃、ふわふわな耳をした愛しい番も同じように震えているだろうか。再び失うくらいなら今すぐ攫って閉じ込めたい。番ならばきっと賛成してくれるはず。
……でも、もしかして…………。
もう――…。
大…丈夫よ……
「え」
俺の自慢の耳がピンと立ち上がる。再び同じ考えのループに陥りそうになったところで何よりも優先すべき声が聞こえた。
ああ、この声は間違いない。
なんて可愛らしい…
俺の……。
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