【完結】番が見ているのでさようなら

堀 和三盆

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48 はい喜んで!!!!(ふわふわ耳視点)

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「フムフム、なるほど。君が番を認識したのは馬車から降りたあの時だったわけか。種族によって認識範囲が違うのかも気になるな。それで、番との具体的な距離はどのくら「旦那様」」

 告白を紛れ込ませたことに満足しつつ、その後も盛り上がって先生と獣人や番についてあれこれ話していると、部屋に先生の執事が現れた。

 話に夢中になりすぎてノックの音に気が付かなかったようだ。ちなみに執事の方とは先生の病院で何度か顔を合わせたことがある。


「お話し中、申し訳ございません。ですが、そろそろお嬢様をお送りいたしませんと」

「うん? もうそんな時間か? うーん、でもなあ……。今日はいろいろあったから、あまり話している時間がなかったんだよ。今良いところだから、もう少しだけ」

「いけません! 婚約もしていない年頃のご令嬢を、あまり遅くまでお引き留めするものではありません。旦那様はそれでよろしくても、お嬢様の評判に関わります」


 そう言われて窓の外を見れば、薄暗くなり始めている。先生との会話が楽し過ぎてウッカリしていた。お忍びのつもりだったから家の馬車も帰してしまったし、確かにそろそろお暇した方がいいだろう。弟が心配するかもしれない。
 両親はそれぞれ別の家族の元に行きっぱなしだからいいとして。

 それにしても、『年頃の御令嬢』か……。うふふ、ここまで生きられたのは初めてだから新鮮な響きだわ。これも先生のお陰よね。感謝しなくっちゃ。


 執事さんには、先生の患者でしかない私の評判まで気にしてもらって申し訳ない。

 でも…ねえ……。


 …………評判も何も。克服したとはいえ病気のことは周囲に知られてしまっているので、私への縁談話は皆無だ。やりたいことは全部やってみる! と意気込んでいるけれど、結婚だけはお相手がいないことにはどうしようもない。
 わざわざ健康状態に不安の残る相手と縁を結びたいとは思わないのだろう。体面を気にする貴族なら尚更その傾向は強い。

 幸い前世とは違い今世の弟には執着され過ぎることなくイイ感じに仲良しなので、このまま嫁がない生き方も有りかもしれない――と思っている。

 だから本音を言えば、時間なんて気にせずこのままずっと話していたいけど、そんなことを言って先生を困らせる気はない。醜聞が立ったらまずいのは先生だって同じだもの。
 恩ある先生にご迷惑だけはおかけしたくない。



「ではそろそろ……」とご挨拶をしつつお暇しようと立ち上がったところで。「面倒だな」……と、先生が小さくつぶやいた。

 そして。


「そう言えば、君は先ほど私が好きだと言っていたな? ちょうどいい。なら私と結婚してくれないか。そうすれば時間を気にすることなく話ができるだろう?」

「旦那様!? なんてことを」

「はいっ! 結婚します!!!」

「お嬢様!!?」


 何ということだろう。まさか先生がそんなこと言うなんて! これは夢なんじゃないか……とか何とか考える前に私は即答していた。

 だって。それこそ前世の寝たきり生活の間に、何度も何度も夢見ていたことだったんだもの。

 ありとあらゆるパターンを想像して辛い治療を続ける心の支えにしていたけれど、その中でも割と現実路線で考えていた状況にコレと近い物があった。

 先生の性格を考えると好きとか嫌いとか、そんな胸がキュンキュンするようなドラマティックな展開はあり得ない。

 あるとすれば、必要に迫られての合理的な理由とちょっとした何らかのタイミングが奇跡的に重なり合った時だけ――そう、まさに今みたいな。

 おそらく、こんな状況はこれを逃すと二度とない。
 だから食らいついてでも絶対に逃すつもりはなかった。




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