【完結】番が見ているのでさようなら

堀 和三盆

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42 猫獣人の恩返し(ふわふわ耳視点)

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 私を見失った後。先生は急いでご自分の住む公爵邸に使いを送ったらしい。
 そして公爵家に所属する騎士団の精鋭部隊を使って、私を捜索させていたそうだ。

 先生は能力主義で獣人を数多く雇っているので、路地裏で私の番を取り押さえてくれた犬獣人の彼もその一人だろう。


 もちろん先生自身も私を探してくれていた。

 息も絶え絶えに先生からそれを説明されたとき、私は感動して震えてしまった。研究以外のことにはまったく興味を示さないあの先生が私の為に……そう思うと泣きそうだったし、興奮から顔も赤かったと思う。そのせいで体調不良を疑われて速攻で熱を測られた。

 こんなとき、恋愛小説や絵物語とかだと手やおでこを使うと思うけど、優秀な魔法医である先生の場合は魔道具を使った本格的な医療用の体温計だった。
 何かあった時の為に、馬車に診察道具一式を積み込んでいるのだそうだ。そんなところも先生らしいと思う。


 貴族令嬢に対する連れ去り事件だ。何もなかったとはいえ、下手をすると醜聞に繋がりかねない。

 事が事だけにカフェではまずいだろう――と、予定を変更して先生がご自宅の方へ連れて行ってくれた。前回、今回を合わせて初めてのことだ。

 医師(先生)による診察も終え、お茶の準備が整ったところで先生が口を開いた。


「――さて。落ち着いたところでそろそろ話を聞かせてもらえるかな?」

「……はい」


 そう返事はしたものの、何をどう話すべきか。

 今日の出来事はどうやっても前世が大きくかかわってきてしまう。

 前の人生で、自分の死後に友人に協力をしてもらい、運命の番の人となりを調査して報告してもらったこと。

 その運命の番が生まれ変わってきて、前世の記憶を持っていたこと。

 そして。

 前世から始まり、転生した今なお、私が持ち続けている先生への想い――。

 どれもこれも口には出しにくい物ばかり。


 そもそも前世の記憶など話したところで信じてもらえるものだろうか? 研究肌の先生に……。

 妙なことを言って先生に嫌われたくない。それを考えると、前世のように自分の死期や死にざまを語る方がまだ口にしやすいというものだ。
 今世では、先生のお陰でその二つも遥か先へと遠のいたが。




「じゃあ、まずは君が番に会った時の心境から。獣人が自分の番に会うと運命を感じると文献にはあるが、具体的にはどのような……」

「――は!? え……? あ、あの……先生、話ってそういう、いつも通りの感じのやつですか……??」

「そうだが? ああ、今日は君が運命の番に出会うという大きなイレギュラーが発生したから、質問内容には若干の変更を加えたが……ほかに何かあるのか?」

「あ、い、いえ、その……。てっきり、私が先生から走って逃げちゃったこととか、その辺のことを怒られるのかと……」

「怒るも何も、それは私を慮ってのことだろう? 『獣人の番への執着と独占欲は強い』『自分以外の異性を番に近寄らせようとしない。嫉妬のあまり暴力的になることもある』――ああ、ほら、ココだ、ココ。君が前に話してくれたからな。大切な話はしっかりとメモを取っているぞ。君は私を巻き込まないように十分な距離を取ろうとしてくれただけなのに、理不尽に怒る必要はないだろう。まあ、見失ってしまい心配はしたが、それはむしろ体力のない私の落ち度だ」

 立派な応接間のローテーブルの上に積み上げられた大量のメモ帳の中から、迷うことなく一冊をつかみ取り。
 ページを開いてトントンと該当箇所を指先で叩きながら先生が言ってくる。

 さも当然と言わんばかりの自然な言葉とその行動には何の裏表も無い。私が前世から大好きな先生そのままだった。


 ああ、先生。大好き、大好き、大好き。
 前世から大好き。ううん、今の方がもっと好き。

 当然よ。いつだって、先生は私を助けてくれていたのだもの……。

 そんな先生の役に立てるのなら嫌われたって構わない。前世から、どんなに言いづらいことだって、聞かれたら先生には話していたじゃない。
 私が失恋したところで、先生の研究のお役に立てるのならばそんなものは些細なことだ。

 だから――。




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