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40 魔法医師の記憶2(先生視点)
しおりを挟む次に産まれた時はショックだった。同じ国に、同じような立場で生まれたのだが、なんとあれから100年以上経つというのに、自国の医療技術がほとんど進歩していなかったのだ。
けれど、前回の記憶がある分、知識・技術面でのショートカットは出来る。幼いうちから医療の進んだ他国から様々な知識を取り入れて自国の医療水準を向上させる一方で、自ら最新の技術を学ぶために留学をした。
もちろん、前回、時間切れで成し遂げられなかったことを実現するためだ。あの病気のカギは魔力にあることまでは既に突き止めたので、その辺に強い魔術移植医療の進んだ国で技術を学んだ。
この技術があれば今度こそあの子を救えるかもしれない。
いざ帰国しようとしたところで、留学中お世話になった教授から引き止められた。
この国に残って研究を続けてほしいとか、両国の友好の為によい縁談があるとか。
研究はともかく縁談には全く興味がない。というかせっかくショートカット出来たというのに、そんなものは時間の無駄だ。
自国へと戻り、留学先で学んだ魔術移植医療を広めるために奔走していると――再びあの子に出会った。
前回と比べ年齢などに多少の誤差はあるが、境遇やあの特徴的なふわふわの耳は同じだった。だからすぐに彼女だと判った。
積極的に他国の医療技術を取り入れたお陰か、今回の彼女は成人年齢を超えることが出来た。
しかし、せっかく学んだ魔術移植も肝心のドナーが見つからず、技術を活かすことが出来ずに結局は彼女を助けることは出来なかった。
彼女と同じ魔力を持つ盲目の少女の視力を取り戻すことには成功をした。
魔力の異常が原因であり、発症した部位が違うだけで二人は同じ病気だった。生き残った彼女のデータを分析していくことで、治療法を確立できるかもしれない。
目的は果たせなかったが、自分には落ち込んでいる時間的な余裕はないのだ。
ふわふわ耳の彼女と仲の良かった友人の少女を救えただけでもよしとしなくてはいけないだろう……迷いを振り払うように、私は前回以上に寝食を忘れ研究に没頭した。
目が見えるようになった少女からドナーとなった親友の墓参りをしたいと相談された。
ふわふわ耳の彼女は前回と同じく上位貴族だった。平民とは埋葬されている区画が違う。そこは入るだけでも許可がいる。
目が見えるようになったとはいえ、平民である少女の身分では訪れることすら不可能だろう。
ならば……と私は自らの地位を使って墓地の所在を調べて世話を焼き、少女がいつでもふわふわ耳の彼女が眠る墓へと行けるように手配した。
魔術を使った目の移植手術は成功したが、親友を喪った少女の精神面が少し気がかりだった。墓参りなどただの気休めかもしれないが、アイディアとしては悪くないかもしれない。
ふと思いついて、少女に自分の分の墓参りと花を供えることを頼んだ。これで提供を受けた少女も――ドナーとなったふわふわ耳のあの子も、寂しがることはないだろう。
墓参りを頼んで気持ちが落ち着いたのか、思考に余裕が出来た。そして考える。
人間の寿命は短い。このまま寝る間も惜しんで研究に打ち込んでいたいが――健康を疎かにすると結果的にその短い時間が更に短くなる。
なので、使用人に丸投げしてバランスの良い食事と規則正しい生活を心掛けつつ、前回と同様、意味を見出せない余計な社交は一切せずに研究に没頭した。
今回治療に取り入れた魔術移植は体の負担が少なく効果も高いが、同じ型の魔力を持つドナーが必要なのが欠点だ。あまりにもチャンスが少ない。けれど、ふわふわ耳の彼女の病気は重症化するとそれしか方法はない。
しかし、早期発見で症状が軽いうちに『魔力を整える治療』を開始すれば、彼女の病気でもそもそも移植は必要ないらしい――。
前回と比べ長生き出来た分だけ研究時間を大幅に増やせたが、そこまでしか解明できなかった。
あとちょっと。あともう少しなのに。
やはり人間という生物は何かを成し遂げるのには向いていないようだ。
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