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37 前世の願い(ふわふわ耳視点)
しおりを挟む妙な誤解をされているのが悔しくて、足掻いても力では敵わないのが腹立たしくて。
せめてもの抵抗で思いっきり番を睨みつけてやった。
なのに。
「ああ、焼かないで。俺の愛は未来永劫君だけのものだから。でも、そうだな。こうして触れて抱きしめて分かったけれど、君は貴族の子だよね? 肌はしっとりと吸い付くようだし、香水も服も高いブランド品だ。以前お付き合いしていた中に上位貴族の御令嬢が……ああ、誤解しないでね? 関係もあったけど、すぐに別れさせられたし。だから判るんだ。俺は平民だし、いくら二人が好きあっていても、越えられない壁があるってこと。ああ、だから俺を傷つけまいとして逃げようとしたのかな? 優しいね、俺の番は」
番の形のいいキレイな猫目が細くなり怪しく笑う。
そして、両手を壁につき、逃げられぬように囲い込まれて。獣化した犬歯でツツーっと軽く耳をなぞられた。
ぞわりとしたところで甘くささやかれる。
「……あの上位貴族の御令嬢は初めてではなかったから連れ戻されてしまったけれど、その様子だと君は初めてだろう? 散らした相手がハッキリしていれば、しかも番だったら、俺みたいな平民でも歓迎されるんじゃないかな? 本当は特別な場所でベッドに花びらでもまいて、優しく優しくしてあげたいけど、連れ戻されたらせっかく出会えたのに終わりだからね。こんなところで悪いけど、とりあえず――の保険にもらっておくよ。……ああこんなに震えて。嬉しいよ、俺の為に大切に初めてを守っていてくれたんだね」
囲い込んでいた腕にギュッと体を囚われて。大きな手の平で愛し気に頭や背中を撫でられた。逃げようと必死にもがいても却って拘束が強まるだけ。
「嫌よ!! 助けて、助けて、先――」
「しっ、静かに。邪魔をされたら大変だからね」
大声で助けを求めたけれど、大きな手で口を塞がれてしまった。
言葉で。態度で。それまでにも何度も抵抗の意志は伝えていたのに、何故か番は聞く耳を持ってくれない。為す術がなさ過ぎて、涙があふれてきた。
「心配しなくても大丈夫だよ。俺は慣れているから、身を任せてくれればすぐに君の心配事はなくなるよ。それで俺達が引き離されることは無くなる。それで――もう、俺は二度と君を失わなくてすむんだ」
ああ、嫌だ。気持ち悪い気持ち悪い。考え方も何もかもが嫌。なのに、強制的に嫌悪感が働かないのが本当に気持ち悪い。そんな自分に腹が立つ。
意志の疎通すら出来ていないのに、番だからと言って何なのか。
スカートに手をかけられた。涙が次々とこぼれてお気に入りの服にシミが出来ていく。
それなのに番の貴方は何で幸せそうに笑っていられるの?
私だって。さっきまではすごく幸せだったのに。たとえそういった意味で相手にされていなくても、あの人の隣にいるだけで全てが満ち足りていたのに。
番かもしれないけれど、貴方は私が望んだ相手とは違うのよ。
先生みたいな人が良かった。先生が良かった。
――先生じゃなきゃダメだった。
先生にそういう感情がないのは分かっていた。
でも近くにいるのが叶うのだったら自分は生涯独身だって構わなかった。
番ではない。たかだかそれだけの事で諦めたくなくて。
だから――あの時私は女神様にお願いしたのだ。
『どうか、先生を私の番にしてください』
――って。
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