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36 誤解(ふわふわ耳視点)
しおりを挟む(……逃げなくちゃ!)
両手で頬を挟まれ自然に上を向かされた。熱い吐息と共に無遠慮に近づくキレイな顔を力いっぱい引っ搔いて、大通りに逃げようとしたけれど。
番の頬にかすった私の爪は奇麗に磨かれ整えられていて、相手に傷の一つも与えることが出来なかった。
「…おっと。ああ、可愛いなあ。俺の番は懐かない子猫みたいだ。……それとも、いいところのお嬢さんなのかな? そうだよね、こんなにキレイな爪をしているんだから」
「ひ…………っ」
手を掴まれ爪をペロリと舐められて、そのまま指先に熱いキスを落とされた。
そのことでまたも拒絶の意志が湧く。
違う違う違う、チガウチガウチガウ……
手を振り払い、大通りへ駆け出した。
けれどそんな態度に危機感を抱かれてしまったのか、腕一本でひょいと腹を掬われ細い路地へと連れ戻されて。そのまま抱えられるようにして路地の奥へ奥へと連れ込まれてしまった。
「ああ、まさか本当に自分の番に会えるなんて。お願いだから逃げないでほしい。リュシーが君に何を伝えたのかは知らないけれど、全部嘘だから」
「リュ…シー? って、え? まさか、貴方も前世を覚えているの?」
予想外の……大好きな親友の名前を出されてつい、反応をしてしまった。まさか、相手も自分と同じように前世の記憶があったとは。
「うん。やっぱりね。さっきから逃げようとするからおかしいと思ったんだ。もしかしたら俺がリュシーに迫ったとか聞いているかもしれないけど、それはただの誤解だから。あの時は既に自分の番がこの世に居ないと聞いて、ならせめて……と思ってしまっただけなんだ。他にも色々……失望させてしまったよね。捨てられても仕方ないことをしたと思う。実際、俺も一度は諦めようとした。でも、どうしても希望を捨てることは出来なかった。番なら馬鹿な俺を許してくれるかも……って。だから、もしかしたらこうして君と出会えるかもしれないと思って、その可能性にかけて、死んだときの救済措置で女神様に頼んでおいたんだ。『もし番に出会えたら、前世の記憶を思い出させてください』ってね。リュシーからの報告を聞いて尚、こうして出会えたということは……俺が番の気配を感じられたということは、君も俺との出会いを望んでくれたと思っていいんだよね? ……嬉しいよ」
「ち、違う違う違う! それこそ誤解よ、私はそんな事望んでないわ! だいたい、素直なリュシーは嘘なんかつかないわよ! いい加減なことを言わないで」
「ああ、なんて素敵な声だろう。大丈夫、こうして本物の君に出会えたのだから、リュシーはもちろんだけど他の人に言い寄ったりしないし、二度と君の気持ちを試すような馬鹿なマネはしない。さっきだって見ていてくれたんだろう? ちゃんと君の視線は感じていたよ。見ての通り、今度こそ付き合っていた彼女達とはきちんとお別れしたから大丈夫だよ。残りの女ともしっかり別れるから」
熱に浮かされたように私を見ながらうっとりとそう言ってくる番。
なんという酷い誤解だろうか。と、言うかリュシーの報告通りだ。先ほどかなり大勢と別れていたようだが、まだ残っているとか、女好きにもほどがある。
こうして出会ってしまったのはただの偶然だ。
私は前世で会えなかった番との出会いなど望んでいない。
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