35 / 64
35 発情する番(ふわふわ耳視点)
しおりを挟む(恐らくはこの方が自分の番――なのね)
あまり獣人としての血が濃くない自分でも判る。ニオイもするし、興味もひかれる。
でも――やはりというか、それだけ、だった。
ある意味前世から予想していた通りだとも言えるが、悠長にそんなことを考えている余裕はなさそうだ。
私の番と言うことは、相手にとっても私は番。そして、ずっと走って追いかけてきたから、というだけでなく興奮からも男の息が上がっているのが判る。顔も赤いようだ。
細い路地へ押し戻されるように詰め寄られて、恐怖から後退る。そのことでますます人目の付かない、身動きも碌にとれない路地へと追い詰められる。
上から下までなめるように観察されてブルリと震えてしまった。逃げたいのに、足が縫い留められてしまったかのように動けない。
キレイだけれど、女性とは違う。それにモテるだけあって体も鍛えているのだろう。遠目からはかなりほっそりと見えていたそのシルエットも、こうしてすぐ近くで見るとそれなりに筋肉が付いていることが分かる。
一方の私は本ばかり読んで、日頃から体を動かすのは孤児院でのボランティアかダンスレッスンくらい。そんな私が番を前にしたこの男性から逃げ切れると思えない。
それでも逃げないと、下手をすると既成事実を作られたうえでのなし崩し的な婚姻なんてことになりかねない。
それどころか、身分差を悟られたらこのまま攫われる可能性だってある。
そうなってしまったら、もう二度と――。
「会いたかった。やっと見つけた。俺…、の……」
もう二度と……と会うことが出来ない。
……え……………?
相手に声をかけられた途端。思考が一瞬停止してしまった。そのせいで、ただでさえ鈍い反応が遅れて手を伸ばしてきた番に触れられてしまった。
さわさわさわ……さわさわさわ……
まるで陶器の触り心地でも確かめるように。繰り返し頬に触れてくる番。
「すげぇ……すべすべだ……」
熱い息と共に番がつぶやいた。
一見すると遠慮がちだが、その間も徐々に距離を詰められて――番の匂いがきつくなる。それでようやく我に返った。
ああ、あの人とは全然違う。
まるで痛み止めが効いていくように。嫌悪感を誤魔化されていたけれど安心感がまったく違うのだ。
まるでこっちに興味が無くて。いつも仕事のことばかリ考えていて。
――私の好意には一切気が付いてくれなくて。
でも、それでも。
そんな……先生、だったからこそ。私はもう一度会いたいと思ったのだ。
追い詰められていた私に救いの手を差し伸べてくれたから。苦しいだけの人生に希望を与えてくれたから。
――そんな先生に二度と会うことが出来ないのは耐えられないと思ったから。
だから、私はあのときに――
123
お気に入りに追加
696
あなたにおすすめの小説

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている
百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……?
※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです!
※他サイト様にも掲載

おいしいご飯をいただいたので~虐げられて育ったわたしですが魔法使いの番に選ばれ大切にされています~
通木遼平
恋愛
この国には魔法使いと呼ばれる種族がいる。この世界にある魔力を糧に生きる彼らは魔力と魔法以外には基本的に無関心だが、特別な魔力を持つ人間が傍にいるとより強い力を得ることができるため、特に相性のいい相手を番として迎え共に暮らしていた。
家族から虐げられて育ったシルファはそんな魔法使いの番に選ばれたことで魔法使いルガディアークと穏やかでしあわせな日々を送っていた。ところがある日、二人の元に魔法使いと番の交流を目的とした夜会の招待状が届き……。
※他のサイトにも掲載しています

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』
伊織愁
恋愛
人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。
実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。
二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』


運命の番様。嫉妬と独占欲で醜い私ですが、それでも愛してくれますか?
照山 もみじ
恋愛
私には、妖精族の彼氏で、運命の番がいる。
彼は私に愛を囁いてくれる。それがとってもうれしい。
でも……妖精族って、他の種族より綺麗なものを好むのよね。
運命の番様。嫉妬して独占欲が芽生えた醜い私でも、嫌わずにいてくれますか?
そんな、初めて嫉妬や独占欲を覚えた人族の少女と、番大好きな妖精族の男――と、少女の友人の話。
※番の概念とかにオリジナル要素をぶっ込んでねるねるねるねしています。

あなたの運命になりたかった
夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。
コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。
※一話あたりの文字数がとても少ないです。
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる