34 / 64
34 突然の出会い(ふわふわ耳視点)
しおりを挟む
「…………っ!!」
しまった見つかった――そう思った時には手遅れだった。
向こうも番の存在に気が付き、こちらへ向かって駆けてくるのが分かった。慌てて目を逸らしたが間に合わなかったようだ。
「番が見ているのでさようならっ!!」
大事な人を巻き込むわけにはいかない。失礼にならないようにどうにか挨拶だけ済ませると、私は全速力でその場を後にした。
番が近くにいる――それに気が付いた私は興味本位でそちらに目を向けてしまった。
かなり遠くに相手が居たので安心してしまったのだ。
愛し合う相手がいる者は相手を守るように番の認識範囲が狭くなる――。そんな話を聞いたことがあったから。
その説を話してくれた人を私は心から信頼していたし、何なら役に立ちたいとも思っていた。せっかくまた獣人に産まれたのだから、実験するには都合がいいと思ったのだ。
――あとは、ほんのちょっぴりの好奇心。番を見たくらいでは自分の思いが揺らがない自信もあったので、躊躇する気持ちは無かった。
結果は――……どうなんだろうな、これ?
良い人体実験になると思ったのだが、
「ぜえぜえ、はあはあ……」
息が上がる。前世と違い、走ることが出来る私。とは言っても幼い頃は前世と同じ病に罹っていたし、克服した今も走ることが苦手なのは変わらない。そもそも前世と全く同じ貴族令嬢なのだ。全速力で走る機会などほとんどない。
ああ、もう。何で番になど興味を持ってしまったのか。
あまり人の多いところは得意ではないが、なるべく人ごみに紛れるように逃げ回った。幸い私はあまり背が高くない。障害物に身を隠しながら移動していたお陰で、あまり距離を縮められてはいないようだ。
と、いうか。何度か追いつかれそうになった場面はあったが、そのたびに女性たちが物理的な障害となって助けてくれた。
あまりに遠すぎて顔はよく見えなかったが、前世、私が死んでからリュシーが報告をしてくれた通りなのだろう。キレイなお姉様たち(…といってもスペックと成長に差があるだけで多分私とそんなに年齢差はないと思われる)が、私の番らしき背の高い男性に話しかけて時間を稼いでくれたのだ。
何人も何人も……っていうか、何十人も。
私の番は本当にすごくおモテになるようだ。けれど、そんなことはどうでもいい。とにかく、ここは逃げ切らなくてはならない。
今日は大事な人に会うためにお忍びだった。家の馬車は帰してしまったし、帰りも相手に屋敷の近くまで送ってもらう予定だったので、適当に言い訳をして護衛も馬車と共に帰してしまったから頼れる人もいない。
こうなった以上、獣人としての自分の野生の勘に頼るしかない。
とにかく安全に身を隠せる場所を……と、目についた細い路地へと入り。
「!? まずいわ……!」
先が行き止まりになっているのに気が付いて、慌てて元来た大通りへと出ようとするも……ヌッと出てきた見慣れぬ大きな影に阻まれた。
相手の頭の上には人間ではない獣の耳。
逆光でよく分からないが。ぜえはあ、と目の前の大きな影が荒い息を吐くたび肩が上下するのが見える。
薄暗い路地にも段々と目が慣れて、相手の口角が微かに上がるのが分かった。
やがて視認できたのは。
汗を掻いているのが信じられないくらい、人形のようにとてもキレイな顔をした――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――猫獣人の男性、だった。
しまった見つかった――そう思った時には手遅れだった。
向こうも番の存在に気が付き、こちらへ向かって駆けてくるのが分かった。慌てて目を逸らしたが間に合わなかったようだ。
「番が見ているのでさようならっ!!」
大事な人を巻き込むわけにはいかない。失礼にならないようにどうにか挨拶だけ済ませると、私は全速力でその場を後にした。
番が近くにいる――それに気が付いた私は興味本位でそちらに目を向けてしまった。
かなり遠くに相手が居たので安心してしまったのだ。
愛し合う相手がいる者は相手を守るように番の認識範囲が狭くなる――。そんな話を聞いたことがあったから。
その説を話してくれた人を私は心から信頼していたし、何なら役に立ちたいとも思っていた。せっかくまた獣人に産まれたのだから、実験するには都合がいいと思ったのだ。
――あとは、ほんのちょっぴりの好奇心。番を見たくらいでは自分の思いが揺らがない自信もあったので、躊躇する気持ちは無かった。
結果は――……どうなんだろうな、これ?
良い人体実験になると思ったのだが、
「ぜえぜえ、はあはあ……」
息が上がる。前世と違い、走ることが出来る私。とは言っても幼い頃は前世と同じ病に罹っていたし、克服した今も走ることが苦手なのは変わらない。そもそも前世と全く同じ貴族令嬢なのだ。全速力で走る機会などほとんどない。
ああ、もう。何で番になど興味を持ってしまったのか。
あまり人の多いところは得意ではないが、なるべく人ごみに紛れるように逃げ回った。幸い私はあまり背が高くない。障害物に身を隠しながら移動していたお陰で、あまり距離を縮められてはいないようだ。
と、いうか。何度か追いつかれそうになった場面はあったが、そのたびに女性たちが物理的な障害となって助けてくれた。
あまりに遠すぎて顔はよく見えなかったが、前世、私が死んでからリュシーが報告をしてくれた通りなのだろう。キレイなお姉様たち(…といってもスペックと成長に差があるだけで多分私とそんなに年齢差はないと思われる)が、私の番らしき背の高い男性に話しかけて時間を稼いでくれたのだ。
何人も何人も……っていうか、何十人も。
私の番は本当にすごくおモテになるようだ。けれど、そんなことはどうでもいい。とにかく、ここは逃げ切らなくてはならない。
今日は大事な人に会うためにお忍びだった。家の馬車は帰してしまったし、帰りも相手に屋敷の近くまで送ってもらう予定だったので、適当に言い訳をして護衛も馬車と共に帰してしまったから頼れる人もいない。
こうなった以上、獣人としての自分の野生の勘に頼るしかない。
とにかく安全に身を隠せる場所を……と、目についた細い路地へと入り。
「!? まずいわ……!」
先が行き止まりになっているのに気が付いて、慌てて元来た大通りへと出ようとするも……ヌッと出てきた見慣れぬ大きな影に阻まれた。
相手の頭の上には人間ではない獣の耳。
逆光でよく分からないが。ぜえはあ、と目の前の大きな影が荒い息を吐くたび肩が上下するのが見える。
薄暗い路地にも段々と目が慣れて、相手の口角が微かに上がるのが分かった。
やがて視認できたのは。
汗を掻いているのが信じられないくらい、人形のようにとてもキレイな顔をした――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――猫獣人の男性、だった。
130
お気に入りに追加
696
あなたにおすすめの小説

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている
百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……?
※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです!
※他サイト様にも掲載

おいしいご飯をいただいたので~虐げられて育ったわたしですが魔法使いの番に選ばれ大切にされています~
通木遼平
恋愛
この国には魔法使いと呼ばれる種族がいる。この世界にある魔力を糧に生きる彼らは魔力と魔法以外には基本的に無関心だが、特別な魔力を持つ人間が傍にいるとより強い力を得ることができるため、特に相性のいい相手を番として迎え共に暮らしていた。
家族から虐げられて育ったシルファはそんな魔法使いの番に選ばれたことで魔法使いルガディアークと穏やかでしあわせな日々を送っていた。ところがある日、二人の元に魔法使いと番の交流を目的とした夜会の招待状が届き……。
※他のサイトにも掲載しています

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』
伊織愁
恋愛
人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。
実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。
二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』


運命の番様。嫉妬と独占欲で醜い私ですが、それでも愛してくれますか?
照山 もみじ
恋愛
私には、妖精族の彼氏で、運命の番がいる。
彼は私に愛を囁いてくれる。それがとってもうれしい。
でも……妖精族って、他の種族より綺麗なものを好むのよね。
運命の番様。嫉妬して独占欲が芽生えた醜い私でも、嫌わずにいてくれますか?
そんな、初めて嫉妬や独占欲を覚えた人族の少女と、番大好きな妖精族の男――と、少女の友人の話。
※番の概念とかにオリジナル要素をぶっ込んでねるねるねるねしています。

あなたの運命になりたかった
夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。
コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。
※一話あたりの文字数がとても少ないです。
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる